第184話 カルベリアツリーのダンジョン再攻略Ⅵ
翌日、俺達はバテバテの状態で900層に辿り着いた。
「やっと来たな」
「そうですね」
「前人未到の900層――。一体何がいるのだろうか」
「でも、私達大分強くなったから問題無いと思うよ。皆気合を入れていこう!」
ミクちゃんはそう言って明るく言ったので、アリシアもランベリオンも緊張が解けたようだ。それを見た俺は扉を勢いよく開けた。
部屋はレンガで造られた室内闘技場のような空間だった。屋根があるイタリアのコロッセオというべきか。
そして部屋の中央には人影が見えた。それはボスだろう――。
そのボスが俺達を睨んだ瞬間、背筋が凍るような寒気が俺達を襲った。これはヤバい。そう直感した。
人間かロボットなのかは分からないが、ギラっと光る目の部分はオレンジ色になっており、黒目という概念は存在しない。ぶっちゃっけアメコミヒーローの目の部分と言えばいいだろうか。
そして、鎧は群青色が主流で、関節の部分には必ず金色の紋様の差し色が入っている。特徴的なのは龍の角を模したようなデザインの角が2本ある兜だ。そして、前頭部から後頭部にかけては、邪悪龍の翼を彷彿させるデザインをした装飾品のような物が付いている。
肌の露出など一切無く、従来であれば関節部分は動きやすいように柔らかい素材を使ったりするが、このボスにはそれが無い。全くと言っていい程無駄が無いのだ。
身長は190cm程だろうか。それと同じくらいのリーチをした柄の部分が金色で、斧と剣を混ぜたような特徴的な形をした黒刀を左右に持っている。そして、その黒刀からは赤色の禍々しいオーラが漂う。
そして、さっきから視ているが鑑定士のスキルが無効化されている。そして一番驚きなのは――。
「8,000……」
「なりゆき君、それは本当!?」
ミクちゃんは恐る恐る俺にそう問いかけてきた。
「本当ですね。私の目にも8,000という数字だけは出てきていますから」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
「900層まで来たのは褒めてやろう。まさか人間が2人もいるとはな。スキルもなかなか強いようだ。ノアを開放したのも、この塔の結界を超越するその解除スキルで解いたのだな?」
そのボスの問いかけにミクちゃんは頭が混乱していた。鑑定士Ⅵのスキルを持っているボスは初めてだったからだ。俺も正直焦っている。
「どうした? 喋ることができないのか? 俺には視えているから隠しても意味無いぞ? まあいいせっかくだ。かかってくるがよい。どうせ俺には勝てないのだからな。言っておくが逃げようとしても、無駄だからな」
俺達の考えはお見通しというわけだ。こんな異次元な実力を持った奴を相手にするなんて、普通なら死ぬ。それにカルベリアツリーのダンジョンには、昔あった
「さあ来るがよい」
ギロリと睨めつけてくるそのボス。
「俺はナリユキ・タテワキだ。マーズベルの国主をしている。アンタの名前は?」
「名乗らなくとも、俺は鑑定士で視えているからいいものの。律儀な人間だな。しかし、残念ながら俺は貴様達に名乗る必要が無い。何故ならばここで朽ち果てるからだ」
「やってみなきゃ分からねえだろ?」
「それは強がりというものだ。貴様は念波動を使える変わった人間だ。アードルハイム帝国を滅亡させた人間が馬鹿な訳でもない――。という事は、自身奮い立たせているのだな。面白い」
このボスは口が無い――というか。中身が人間だったら口元は動いているはず。如何せん、兜と鎧のせいで口元も見えないから表情が全くといっていいほど分からない。
「動けないですね――」
「そうだな。奴の視界に入った瞬間、自分の身体が真っ二つになるイメージしかできない」
アリシアもランベリオンも一歩を踏み出せないでいる。奴の間合い――。俺達とボスまでの距離は10m程ある。しかし、一歩踏み込めばやられるイメージが出来てしまう。俺には再生スキルがあるから、何とかなるが――。
いや、行くしかない!
「なりゆき君!」
「ナリユキ殿!」
「ナリユキ様!」
俺が踏み込むと、ボスは待っていたと言わんばかり黒刀を俺に向けて来た。俺には斬撃無効がある。だからボスの剣は効かない! そう思っていた。
ボスに近付き、俺は手からAA-12を取り出した。やはり自分より強い敵にはこの銃が一番使いやすい。ポンプ式やレバーアクションだとどうしても隙が大きい。
俺はボスの後頭部に狙いを定めた。そして撃つ――。
キインという音だけが響いた。狙撃手が付いているので外れることは無い。だとすると、さっきの金属音は、銃弾を見切ってガードをした。
よくよく見てみればグリップの向きが数ミリ動いている。
俺は冷や汗をかかずにはいられなかった。その汗が妙に冷たく背中を刺激する悪寒が止むことが無い。
「一発で見切ったようだな」
「今――。何もしていないように見えて、黒刀でガードを弾いたんだよな?」
「そうだ。よく気付いたな」
そのセリフに、ミクちゃんも、ランベリオンもアリシアも驚かずにはいられない。刀が鉛弾を弾いた音に、弾いたことによって少し握り方が変わっている手。そして
ミクちゃんは光の速さで動くことができるが、ミクちゃん以上の実力を持つ俺は、光の速さ位ならこの世界においては捉えることができる――。その俺が全く見えないというのは、もはや俺の語彙力では言い表わすことができない次元の剣速――。
「ほう――。今のガードだけで様々な考察をしているようだ」
もう一度試そう。俺はそう思って
後ろを取り、AA-12を構えた瞬間だった。俺は斬撃無効のスキルが付いているの上半身と下半身が真っ二つになった。自分の下半身が左隣にあるという何とも異様な光景。
「痛覚無効のスキルがあって助かったな。それに元に戻ることができるんだろ?」
俺はボスに言われるまま元通りになった。まず、勝つためには情報収集をしないといけない。強敵相手に
「もう勝負はついたな。貴様等ではまだ早い」
ボスがそう言ったので、俺以外にもミクちゃん、ランベリオン、アリシアの4人で襲い掛かった。
「へ?」
俺の首が飛んだのも驚きだが、俺以外の皆の首も宙に舞っていた。ここで初めてミクちゃんや皆を巻き込んでしまった事を後悔した。
心の中でミクちゃん! と叫んだ。顔がグシャグシャになるほど涙が止まらない。俺は何てことを――。ミクちゃんを中心に、皆との想い出がフラッシュバックした。
痛くはないが地面に俺の顔は叩きつけられた。
ボスは俺を見るなり、足を振り上げて容赦なく踏みつけてきた。
そして誘われる暗黒の世界。
ミクちゃん、皆ゴメン……。
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