第180話 カルベリアツリーのダンジョン再攻略Ⅱ

「800層に到達する者達がいるとは驚きだな――。ランベリオンか。と、いうことは貴様等がノアを外へ出した常識離れの人間達だな?」


「知っていたのか」


「ノアがいなくなってダンジョンは騒然としていたからな――。ダンジョンの結界を解除したのは誰だ?」


「私ですが」


「ほう」


 いや、怖い怖い。感心している筈なのにずっと無表情なんだけど。


「やはりここまで来れる時点で優秀なのは間違いないようだな。ならば吾輩を討ち取ってみるがよい」


 ニーズヘッグは巨翼を大きく羽ばたかせた。羽ばたくと同時に吹き荒れる暴風。そらこんな巨体なら翼を動かすだけで災害だろうよ。


 ニーズヘッグは口を開けた後、口には赤いエネルギーの集合体が――。


「おい、ちょっと待て」


龍の咆哮ドラゴン・ブレスだな」


 ランベリオンは冷や汗をかきながら言っているので、恐らく馬鹿デカい攻撃なんだろう。


「ミクちゃん、ランベリオン、アリシア。俺をニーズヘッグに向かって飛ばせ!」


「それではナリユキ様が――」


「スキルリターンあるの忘れているだろ」


 そう、言うとアリシアの表情はパアと明るくなった。


 ニーズヘッグが吐き出した超巨大な龍の咆哮ドラゴン・ブレス。いつも聞いている超高音とは比べ物にならない音だ。耳栓が付いているのに、耳の奥までギイイイイイイイという音が響く。


 俺が龍の咆哮ドラゴン・ブレスに立ち向かっていくと。


「吾輩の龍の咆哮ドラゴン・ブレスを止められると思っているのか? やってみろ!」


 と、得意気にニーズヘッグは笑っていた。


 俺は向かってきた龍の咆哮ドラゴン・ブレスに向かって、両手を大きく振り払うと、思っていた通りだ。龍の咆哮ドラゴン・ブレスはニーズヘッグの向かって跳ね返った。


 ニーズヘッグは一瞬驚いたようだが、表情には余裕の2文字が描かれていた。


「どういうことだ?」


 俺がそう口にした刹那。俺が跳ね返した龍の咆哮ドラゴン・ブレスは、ニーズヘッグの目の前でかき消された。


「なっ――」


 吃驚している間に地面に着地した俺は、上空で浮遊しているニーズヘッグを睨めつける。


「どうなっているんだ。スキルリターンですら無いぞ?」


「あれはニーズヘッグさんの罠冒険トラップアドベンチャーですね」


「確かにあんなアクティブスキルやパッシブスキル無かったもんな」


「我はニーズヘッグの所有スキルすら知らない」


「私もです」


 ランベリオンとアリシアがそう言って拗ねているので。


「ああ。もう分かった! 3人共俺の前に来い」


「おう」


「は――はい」


 3人が俺の近くに来た事を確認した。


 そして、俺の右手が黄金に光るとミクちゃんとアリシアは察したようだ。


知性・記憶の略奪と献上メーティス


 俺がそう言うと、3人は驚いたような表情をしていた。


「ナリユキ殿これは――」


「す――凄い。ナリユキ様の知識が私のなかに――」


 知性・記憶の略奪と献上メーティス。それは知性を与えることで、適正があれば新しいスキルを習得できるという可能性。加えて、俺が持っているニーズヘッグの情報や、今までの戦闘センスを共有したことにより、個々の戦闘値が大幅に上昇した。ミクちゃんが5,200。アリシアが5,000。ランベリオンが4,900となった。何か皆300くらい上がったんだけど。


「何だ? 今何をやったのだ?」


「いいから慌てるなって。ほら、せっかく人間来たんだから、アンタも戦闘を楽しみたいだろ?」


「うむ。そう言われてみれば」


 と、ニーズヘッグが抜かしやがったので、チョロいなこのオッサンと思ってしまった。何かランベリオンに似たところあるぞ。


「なりゆき君ってこんな学生だったんだ。そうか――。アマミヤさんとこんな感じだったんね」


 と、言いながら、ふふ――。と笑みを浮かべたミクちゃん。ミクちゃんにはオマケで前の世界の俺がどんなだったかの記憶まで共有した。やっぱり喜んでくれたようだ。


「我は漫画、ゲーム、映画の記憶が欲しかったのだが――」


 何か欲張りな 飛竜ワイバーンいるけど無視しよう。


 まあ、どんな記憶や知性を共有するかってのを自分で選択できるのがいいところだ。変な話――。ミクちゃんとの初夜なんか2人に死んでも共有できないからな。


「これで我も奴と戦えるな――。いや、戦えるのか?」


 と、割と不安気なランベリオン。


「厳しいですね。やはりナリユキ様に頼るという手段になりそうです」


 アリシアはそう言って謝罪してきたが気にしないのは当然。


「これはもう俺が後衛になるしかないな。ニーズヘッグの前には罠冒険トラップアドベンチャーがあるんだろ? それにスキルリターンもある。アクティブスキルは効かないし、物理攻撃無効だし、俺は空も飛べないから俺が出来るのは銃を撃つことだけだ。ミクちゃんとランベリオンは剣で牽制。アリシアは自分の身を守りながら、2人に強化バフを与え続けること。まともにやったら2人は一瞬でやられてしまうからな。細かい動きは念話で適宜指示する! 踏ん張ってくれ!」


「はい!」


「おう!」


 ミクちゃんはそう言って、身体向上アップ・バーストを使った後、自身に強化バフを与えた。さらにアリシアの強化バフもかかり、ミクちゃんの戦闘値は大幅に上がった。


 人型化ヒューマノイドを解除したランベリオンは宙に浮かんだ。


「ほらよ」


 俺がそう言って手から出したのは、ランベリオンが元の姿の際に持つことができるサイズの、炎が噴出される緋色の刀だった。


「我の死の灰デス・アッシュで塵にしてやるわ!」


 ランベリオンの気合は十分だ。


 そう思っていると、2人はニーズヘッグに向かって飛んで行った。


 ニーズヘッグの余裕の表情は消えることはないが、その他にも妙にきな臭い雰囲気が漂っていた。

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