第88話 協力要請Ⅱ

「そのルールってのは互いにかけるんやろ? どんな感じなん?」


「そうだな。私は幸いかけられていないが、他の人の話をすると、アードルハイム皇帝に攻撃や、攻撃とみなされるアクションを起こせば、その人とその人の親族全員の命を奪うというルールだ」


「酷い」


 アズサもネオンちゃんも思わず口を覆った。確かに酷い――。しかもユニークスキルやから、割と一方的にルールを決めることが出来るねんな。例えばアルティメットスキルなら、クロノスさんが使う悪魔の審判イビル・ジャッジメントやったら、対象者の今までの罪を清算し、その罪が重ければ重いほど相手を苦しめるアルティメットスキル。場合によったら確殺できるという恐ろしいスキルやけど、相手の罪が軽すぎた場合、クロノスさんにダメージが入るという制限がある。このように殺せる確率が高いスキルほど、何かしらの制限がされとる。


 せやけど、ユニークスキルの場合、その制限があれへん。ナリユキさんのユニークスキル何か、普通なら何かしらのリスクがあってもいいけど、恐らく割と何でもポンポンと出せるスキルや。せやから、アードルハイム皇帝のスキルは相当厄介なはず。リスク無くポンポンと人の命奪えるからな。


「それは歩くなって命令でも人の命奪えるんか?」


「極論そうだね。アードルハイム皇帝が課すルールは、相手にメリットを与えるルールなら何でも良い訳さ。実際にその歩くなってルールを設けられて、十分な食料と水を与えるというルールを課して、拷問を受けた人間がいたぐらいだ。この国では兵士にさえなれば、何でも許される。兵士が正義だから皆兵士になりたがるんだよ。それでこれほど大きな軍事力を誇っている」


「マジで酷い話やな」


「やっぱり許されへんな」


「やっぱり? 前から気になってたけどお前は何でそない、ここに来てからちょこちょこ殺気だっとるんや?」


 すると、ラングドールは悲しそうな目で見つめながら、口元に手を当てて口を開く。


「もしかして知り合い、友人の誰かが帝国兵に捕らわれているとか?」


 すると、アズサは涙腺が崩壊したようやった。涙がこれでもかというくらい頬を伝ってる。


「何とか……できへんのですか?」


 やっと言えた――。そんな感じの思いやった。胸に手を当てながら、拳を握りしめてる。そしてアズサの拳からは血が出てた――。こんな辛そうな顔を見たのは一緒にパーティーを組んでて初めてな気がする。


「それは残念ながらできない。勿論、過去に奴隷扱いされている人々を解放しようと試みた人がいた。それは私が慕っていた人だ。確かに何人かは解放することができたんだ。でもその後捕まり、好きなだけ犯された後、女性の性器を裂かれた後、先端が尖った木で串刺しにされて惨殺された。串刺し刑というやつだ」


 吐き気がする――。俺でもそんなんやから――。


 アズサとネオンちゃんの顔は蒼白してた。そらそうや。アンデッドのノーディルスは普通の顔しとったけど、目だけは怒ってる――。


 その行為はいわゆる見せしめや。こうなりたくなかったら逃げる真似するなよ? お前たちは俺達のコレクションなんやから――。そういう恐怖心の植え付け方や。やんちゃしていたときも、ここまで酷いことはしてないけど、他校でそんな事してる輩がおった。未だに忘れられへん――。友達ダチがあんな惨いことされるなんて――。


「申し訳ない。気分を悪くさせてしまったみたいだ。だから、単独では行動できないけど、皆で力を合わせて自由を手に入れる。それが反乱軍の副団長の私と、団長の願いだ。さっきは無理やり承諾してくれたけど、もう一度ゆっくり考えてくれていい――。もし、もう一度協力してくれると言ってくれるのであれば、ティラトンというお店に来てくれ。そこで私の仲間が待っている」


 そう言うとラングドールは席を立ち「それじゃあ待ってるよ」と言うとこの部屋を出て行った。


 取り残された俺達は、えげつないくらい重い空気になってた。まるで、クエスト初日でパーティーメンバーの誰かが重傷を負って反省会をしているような――。そんな何とも言われへん空間やった。


「噂通りというか真実だったんだな。反抗すれば酷い拷問が待っているのは」


「そうやな。でも俺は今回は退けへん」


「レン――。少し嫌な質問をするぞ?」


「なんや?」


 ノーディルスは真っすぐ俺の目を見てゆっくりと口を開いた。


「それが例え偽善者と揶揄されてもか?」


 ふう――。と深呼吸した。


「そうや」


 その溜めた深呼吸を吐き出すかのように言うと、ノーディルスは「そうか」と笑ってくれた。それが何とも言えへんくらいに胸がいっぱいになった。


「何かありがとうな」


「よせよ。ハズイだろ」


人型化ヒューマノイド解いたら、骸骨の顔したアンデッドやのに、めちゃくちゃ人間臭いやんけ」


人型化ヒューマノイドしている時間が長いと、どんどん人間味が増すんだ。人型化ヒューマノイドは個体値が高い魔物ができる芸当だからな。強ければ強いほど人間に染まっていく」


 そう言っているノーディルスは再度微笑んでくれた。


「ええ魔物とうてよかったわ」


 それだけ言うて2人の様子が気になって後ろを振り向いた。


 真っすぐ見つめてくる、アズサとネオンちゃんの瞳には、心なしか俺とノーディルス以上の闘志を感じ取ることが出来た。

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