【第七話】外の世界へ ④
「この屋敷で、俺が秘密裏に脱出できそうな所はあるか……?」
「…………ッッッッッ!!そ、れは…………ッ!!さ、流石に……ッ!!」
ザク────ッ!!
恭司は、男の指を1本斬った。
歯向かった以上、躊躇いは0だ。
目の前で、赤い血飛沫が弾け飛ぶ。
「ぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ッ!!わ、私、の……ッ!!私の、指がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………ッ!!」
赤い血が勢いよく流れ出し、男の叫び声が部屋中に響き渡った。
男は激痛と悲しみのあまり、大粒の涙を流す。
指は料理人にとっての命とも言える部位だ。
繊細な味付けや匙加減を行うためには、指は何よりも重要な役割を果たしている。
恭司は冷たい表情で、男の泣き叫ぶ様子を見つめていた。
「俺はとても優しい一面を持っていてな…………。基本的には、穏やかで寛容な性格をしている…………。だから…………そんな反抗的な態度も…………特別に、"10回"までは許してやろう」
「そ、んな……ッ!!い、いく、ら何でも……ッ!!あんまりです……ッ!!」
「2回目…………」
ザク────ッ!!
恭司は、男の指をもう1本斬り落とした。
容赦も慈悲も全くの無しだ。
さっきまで動いていた男の指は、床にポトリと落ちていき、指2本分の血が流れ出る。
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!痛いッ!!痛いィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
指が2本無くなった男は、涙を流しながら絶叫した。
喉を潰している分、音はそこまで大きくないとはいえ、煩わしいものだ。
恭司は苛立ち気味に、男の髪を乱暴に掴む。
「あぅ…………ッ!!」
恭司の目は冷たく、悪いことをしたなどとは微塵も感じてはいなかった。
こんなことは、前世で何度も経験してきたのだ。
恭司は殺気を放ちながら、イラついた顔で尚も問い掛ける。
「だから…………いちいちイラつかせるなよ…………。お前が大人しく話せば、こんなことはすぐに終わるんだ」
「う……ッ!!うぐ…………ッ!!ヒ……ッ!!ヒック……ッ!!」
男は泣きながら、どうしたらいいのかを必死に考えていた。
カザルの逃亡を手伝ったなんてことがバレたら、男はもちろん、男の家族も全て…………一族郎党皆殺しだ。
カザルの父親である『トバル・ロアフィールド』は、そういった裏切りを絶対に許さない。
だが…………
仮に言わない選択肢を取ったとしても、男にはもう、ここで逆らえばどうなるかは分かりきっていた。
状況やタイミングを考えれば、すぐに分かることだ。
質問内容といい、年齢といい…………恭司がカザル・ロアフィールド本人だということくらいは、誰にでも分かる。
そして…………
恭司の言った、"10回"────。
その意味もまた、分かっていた。
それは、右手と左手────。
両手の、"指の数"だ。
「改めて聞こう…………。この屋敷で、秘密裏に脱出できそうな所はあるか……?」
「ゥ…………ッ!!ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…………ッ!!」
唸る男の指に、恭司はわざとらしくナイフを準備する。
喋らなければ、恭司は容赦も躊躇いもなく3本目の指を斬り落とすだろう。
(そんなのは嫌だ……ッ!!死にたくない死にたくない死にたくない────ッ!!)
さっきから体中の力が抜けてきて、死を間近に感じていた。
1本目の指を指を切られてから、もう既にそれなりの時間が経っている。
斬られた指の付け根からずっと血がドバドバと流れ落ち続けているのだから、当たり前のことだ。
男は息を一息吸い込むと、震えながら、恐る恐る口を開く。
「屋、敷……の裏、口、に…………下水、道へ、続く、入口が、あり、ます…………。これで……」
男は最期にそれだけを話すと、そのまま気絶してしまった。
おそらくは、痛みと出血多量によるものだろう。
恭司は男の髪を離し、投げ捨てる。
時間はかかったが、上出来だ。
脱出経路が分かったことで、恭司は嬉しそうにニィィィィイイイイイイイイイイイイッと、嫌らしく笑った。
「屋敷の裏口に下水道へ続く入口ねぇ…………。いいことを聞いた」
恭司は気絶して倒れた男を尻目に、もう一度時計に目を向ける。
残り時刻はあと僅かだ。
父親は確実に痺れを切らしているに違いない。
もうなりふり構わず増援を送り出してくるだろう。
何ならもう来ているかもしれない。
カザルが無能者だと知っている人間からすれば信じられないだろうが、状況から見て、既に脱獄したことはバレているに違いないのだ。
そうすると…………
これからは竜騎士や聖騎士のような、上級職の人間も出張ってくることだろう。
場合によっては、来賓の護衛たちも追手に回ってくるかもしれない。
(ここからまっすぐ裏口へ向かったとしても…………無事に辿り着くのは難しそうだな……。この先には敵も山ほどいるだろうし……)
恭司の捕えられていたこの独房付近と違い、屋敷内は様々な人間が常に数多く出回っているはずだった。
ここに人が少ないのは、単に目立ちにくいよう、敢えてそう作られているからだ。
進めば進むほど、強者や人の数も増えていくに違いない。
無事に辿り着こうと思えば、一計を案じなければならないだろう。
「まぁ…………ここにはちょうど、いい材料も揃っていることだしなァ……」
恭司はそう言って、厨房を楽しそうに見回した。
この状況でやることなど、決まっている。
恭司は悪魔のような笑みを浮かべ、舌を舐めずった。
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