第17話 あくまで悪役
「ここか。依頼場所の酒場ってのは」
ラルフルがリョウ神官に追われたため、なんとか川辺を後にできた俺は、依頼場所の酒場の前に来ていた。
街一番の酒場と言われるだけのことはあり、店の規模は大きく、客の出入りも多い。
「気は乗らねえが……やるとするか」
これから俺がやることは、この店を害すること――
気分は最悪だが、俺は店の中へと足を踏み入れる。
カラン
「いらっしゃいませ、お客様。申し訳ございませんが、ただいま満席でございまして――」
「席の用意はいらない。俺はドーマン男爵の使いだ」
「ド、ドーマン男爵の!?」
俺に話しかけてきた店員にドーマン男爵の名を出すと、店員は怯えて店の奥に目を向ける。
ザッ ザッ ザッ ザッ
そして奥から現れたのは、四人組の男達。
店の用心棒――ギャングレオ盗賊団の連中のお出ましのようだ。
「店員さ~ん。俺らの出番のようでヤンスね~」
変な語尾の奴が一人。
「ドーマン男爵も懲りないでゴンスな」
変な語尾の奴がまた一人。
「俺たちが『泣かぬ子も喚き叫ぶ』、恐怖のギャングレオ盗賊団と知っての狼藉でアリンスか?」
またまた変な語尾の奴が一人。
変な語尾の奴多いな……。
「待ちなおめえら。見たところ、今回の刺客はおっさん一人だけか?」
さらにもう一人、今度は変な語尾じゃない奴が出てきた。
――語尾は普通だが、容貌がおかしい。
サングラスに半裸って、もうちょっとマシなコーディネートは思いつかなかったのか?
結構太ってるし、見た目のインパクトが強すぎる。
ギャングレオ盗賊団ってのは、変人しかいないのか?
「サイバラの兄貴! ここは俺ら三人に任せてくださいでヤン……ス……?」
「ホクチ。急に何を黙ってるでゴン……スゥ!?」
「ナンコ。お前、何を驚いた顔してるでアリ……ンスゥ!?」
「トーカイ。なんでおめえまで黙っちまうんだ? このおっさんの顔に見覚えでもあんのか?」
ホクチ、ナンコ、トーカイと呼ばれた三人は俺の顔を見て急に固まってしまった。
なんだ? 俺の知り合いか?
まさか、俺が記憶を失う前の――
「ああああ!? こいつ、二年前に俺らが襲った村にいた、おっさんでヤンス!」
「ん? 二年前? 村を襲った? ……ああ、あの時の話か」
「思い出したでゴンスか! あの時はよくもやってくれたでゴンスね!」
「あの件は自業自得だろ……。あと、お前らがあの時いたかまでは思い出せない」
「ひどいでアリンス!?」
そうか、こいつら二年前に俺が流れ着いた村を襲った盗賊団だった連中か。
こいつらの顔、全然覚えてないけど。
あの時逃れて、今はギャングレオ盗賊団の世話になってるってわけか。
「ほーう。おっさん、この三人とは因縁があるみてえだなー?」
最後の一人、このグラサン半裸はあの時のメンツではないようだ。
だが、さっきの話を聞く限りこいつがこの四人のリーダー。
つまり――
「おい。お前がギャングレオ盗賊団の幹部だな?」
「おうとも! このおれこそが、栄えあるギャングレオ盗賊団の幹部が一人! "特攻隊長"のサイバラ様だ!」
そう言って派手に名乗りを上げる、グラサン半裸――もとい、特攻隊長のサイバラ。
見た目こそ奇抜だが、見るからに重そうなその体躯から、豪快なパワーと気迫を感じることができる。
「おっさん、ドーマン男爵の使いだって言ってたな? あいにく、この店の権利はドーマン男爵の手にはねえ。領主の侯爵様が、そう言ってるんだからなあ! 分かったら、お引き取り願おうかねえ!」
「俺も雇い主のドーマン男爵から、『店の用心棒を倒せ』と言われてるもんでな。簡単には引き下がれねえよ」
ザワ ザワ
俺とサイバラのやり取りを聞いて、店の中にいた客がざわつき始める。
「あの男、ドーマン男爵の手下なのか!?」
「ドーマン男爵にこの店をまた取られるわけには……!」
「頼む! ギャングレオの用心棒さん! あんたらだけが頼みの綱だ!」
ああ……。やはりこの状況だと俺が悪者になっちまうのか。
むしろ、店を守るギャングレオ盗賊団のほうが味方なんだな。
本当に胸糞悪い仕事だ……。
「随分店から頼りにされてるみてえだな、ギャングレオ"盗賊団"さんよぉ。なんで用心棒なんかしてるのかは知らねえがな」
「最近は盗賊団も……その……なんだ? "ターカック・ケイエー"……だったか?」
「兄貴。"多角経営"でヤンス」
「そう、それだ! とにかく、そういう経営をする時代なんだよ!」
盗賊団が経営か……。
時代も変わったんだろうが、それはもう盗賊団なのだろうか?
そんなことはどうでもいいか。
俺の仕事はこの用心棒達を――ギャングレオ盗賊団の四人を倒すことだ。
「サイバラの兄貴! ここは俺らに任せてほしいでゴンス!」
「二年前の恨み! ここで晴らさせてもらうでアリンス!」
そう言って俺の前に、サイバラの部下三人が躍り出てきた。
「なんだ? 俺の実力を知らねえわけじゃねえだろ? それなのにかかってくるのか?」
「あの時と同じだと思ったら大間違いでヤンス!」
三人は各々の武器を構える。
二年前の再戦か――
仕方ない。こうなったら俺も、"悪役"として尽くすとするか。
部下三人の様子を見て、幹部であるサイバラも命令を下してきた。
「ダハハハ! いいだろう! おめえら、そのおっさんをぶちのめして、ギャングレオ盗賊団の恐ろしさをその身に刻んじまいな!!」
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