ヒロト12

 翌週もヒロトは麻衣のオークションに参加した。

 もしかして今日は譲ってくれるかなと淡い期待があったのだが、それは見事に裏切られた。

 リクが言っていたとおり、今日もガロは来ていた。

「しばらく来れないんじゃなかったの?」とツッコんだ人もいたが、 

「いや、それが予定が変わって、来れるようになったんだよ」

 平然とそう言い放った。

 厚顔無恥とはまさにこの男のことだ。ヒロトはそう思った。

「で、今日のジャンケンはどうする?また、八百長する?」

 ガロがそう言うと、無精髭を生やした小太りの男が「もう今日はいいんじゃない。2回目だしさ。今週もなしというのは俺は嫌だよ」と言った。

 それに一同賛成ということで、今回は真剣勝負ということになった。

 5人の男がジャンケンしたが、勝ったのは、さっき口を挟んだ小太りの男だった。

 世の中、そういうもんだな。ヒロトはもう恨みに思うことなく、妙に納得する気持ちになっていた。


 次の週もその次の週もオークションに参加したが、彼は負け続けた。

 握手会の時に麻衣にそれを言うと、「来週もめげずに頑張って。楽しみにしているのでお願いします」

 本気なのか営業なのか、彼女はそう答えた。


 そんな時、オークションで落札出来なかった場合には誰も入札されなかったメンバーに再申し込みが出来るというルールがあることを知った。

「来週も麻衣さんのオークションに外れたら、私のところに来てくださいね」と、長い黒髪が売りの女子高生の梨乃が握手会の時に教えてくれたのだった。

 ヒロトは一度デート会がどのようなものか経験してみたかった。麻衣のデートの時の予行演習にもなる。

 

 それで、翌週も麻衣のジャンケンに負けた時には、梨乃の所に言った。

 彼女は大喜びだった。ヒロトは彼女と鑑定さんと三人で出掛けた。

「どこに行こうか?」と彼女の意向をたずねると、「お腹ぺこぺこなのでバンバーガーショップがいい」と答え、「ルビたんみたいに高級カフェでなく、安上がりでいいでしょ?」と付け加えた。

 二人で並んで歩き、その後に鑑定さんが付いて来た。高校生の彼女と大学生の自分の後ろに中年の男が何も言わずについて来る。奇妙なシチュエーションだな、シュールでさえあるなと思いながら、ハンバーガーショップに入った。

 

 デートで飲食をする場合は鑑定さんの飲食費もバイヤーが負担することになっている。

 鑑定さんは丁重にお礼を言い、ヒロトと同じ安いバーガーを注文した。

 梨乃と席に座ると、鑑定さんはヒロトの真後ろに座ろうとしたので、良かったらご一緒にと言い、ヒロトと梨乃が向かい会って座り、鑑定さんは梨乃の横に座った。

 

 食べながら、梨乃はいっぱい高校のことを話した。

 言葉の端々に高校生ということをアピールするような感じがして、なんか合わないな、と思った。現役で入った同級生とも話しが合わないのに、女子高生と合うわけはないかと思った。

 話している彼女を見て、不細工だなと思った。こういうグループはクラスの上から3、4番目に綺麗な子を集めていると聞いたことがあるが、梨乃の場合、下から3、4番目の間違いでないかと思いさえした。

 鑑定さんは何も言わずに、じっと話を聞いている。後で知ったのだが、バイヤーが女の子にいやらしいことや不適切なことを言ったり、連絡先を聞こうとしたり、身体に触ろうとしたりしないかをじっと監視しているそうだ。

 仕事とはいえ、大変だな、面白くないだろうなと思った。

 歳上のバイヤーならともかく、自分のような歳下の場合、馬鹿馬鹿しくはならないのだろうか?

 そう思って、鑑定さんにデート先はどこが多いのですか?と尋ねると、意外と饒舌に彼は色々なデートコースを話し始めた。

 この町には小川のような用水が流れていて、その水路沿いに散歩道が作られていた。近くの店でかき氷を食べ、その道をゆっくりと散歩するというのが彼の一番の夏のお勧めデートプランであった。

 


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