6月6日(火)曇り時々雨 後輩との日常・三浦将基の場合その4
梅雨らしく湿った感じの楽器の日。
いつも通り文芸部の雑談タイムが始まるけど、先週の一件から少し1年生の女子2人と話すのが怖くなっていた。
これは三浦くんに良い例は見せられない。
「路子さん、この前読んでた本は読み終わったんですか?」
「うん。良かったら貸してあげようか?」
「い、いいんですか!?」
一方、路ちゃんは石渡さんの心をしっかりと掴んでいるようで、現時点の僕では見られない石渡さんの表情を引き出していた。
いったいどうしたら石渡さんの好感度を上げられるのだろうか。
「産賀さん、どうしたんですか」
あまりにも石渡さんの方を見ていたせいか、三浦くんに心配されてしまう。
「ああ、いや。石渡さんと路ちゃんが楽しそうに話してるなぁと思って」
「確かに。なんか最初から馴染んでますよね、あの2人……あれ?」
「うん? どうかした?」
「産賀さん、路子さんのことちゃん付けで読んでるでしたっけ?」
「あー……そうだったと思うよ」
実際に三浦くんの前で路ちゃんをどう読んでいたか覚えてないけど、完全に気が抜けて言ってしまった。
「なんとなく、全員さん付けしてるイメージだったんですけど……」
「まぁ、人によりけりかな。同級生で同じクラスだし」
「……それで言うなら、ボクは石渡さんと同級生で同じクラスなのにまともに会話すらしてないですが」
「同じクラスだったんだ」
「自分でもそれを忘れるくらいには関係性薄いです。というか、野島さんを経由しないと話せません」
「それはなかなか……いや、僕も似たような感じか」
「なんとか好感度上げられたらいいんですけど……」
今の三浦くんは僕とほぼ同じような状態のようだ。
でも、先に帰っていた頃よりは話そうとしている意志があるのはいい傾向かもしれない。
「産賀さんが路子さんをちゃん付けで呼べるようになったキラーワードみたいなのはないんですか?」
「き、キラーワードと言われても……仲良くなったのは長く交流したおかげでもあるし」
「なるほど。一緒に帰るぐらいには仲いいみたいですね」
「う、うん?」
「だって、部活終わりもちょっと居残ってから一緒に帰ってるじゃないですか」
「み、見てたんだ」
「たまたまです。早く帰ってる時には気付かなったですけど」
そう言った三浦くんは少し含みがある笑いを見せた。
その流れで言ってしまっても良かったのかもしれないけど、三浦くんとの会話はそこで途切れてしまった。
先週の件を考えると、三浦くんが石渡さんと手っ取り早く仲良くなるには……僕と路ちゃんをネタにするのが一番かもしれない。
かといって、本人からそれを勧めるのは違うし、僕の方が石渡さんと仲良くする方法は全く思い付かないままだ。
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