3月16日(木)曇り 奮起する大山亜里沙その9

 天気が下り坂になった木曜日。

 週の前半に色々あったけど、その間にも学期末テストが返却されていて、今日の時点でほとんどの教科の点数がわかっていた。


「でも、教えるのは全教科返ってきてからだからね?」


 大山さんはいつものようにそう言う。

 最後に結果がわかった方がいいのは相変わらずらしい。


「あっ。ただ、ミチと話す分には全然話して大丈夫だよ」


「わかった。でも、一応話してないよ」


「ふーん。そんなこと話しているほど暇じゃないとか~?」


「そ、そういうわけでは……」


「なーんて、冗談だって」


 ……なんでだろう。大山さんの調子が戻ってきた証拠なのかもしれないけど、最近はぶり返すように路ちゃんとの関係を弄られる瞬間が増えた気がする。

 まぁ、嫌な気持ちにはなるわけではないので、やめろとは言わないけど。


「それで……部活前なのにその話をわざわざ?」


「そっちは世間話。本題は……これ!」


 そう言いながら大山さんが鞄から取り出したのは、冊子と数枚の容姿だった。

 表紙にはバドミントン部とそれに関する煽り文が書いてある。


「もしかして……勧誘?」


「そそ。明莉ちゃんが入部するかどうかわからないって言ってたから。資料とか見た方がわかりやすいでしょ?」


「気が早いね。1ヶ月くらい先なのに」


「いやいや、部員の勧誘は大事でしょ? うぶクンとこの文芸部だって、1年生を確保しないと来年の人数厳しいんじゃない?」


「た、確かにそうだ」


「まぁ、本来は付き合いが長くなる今の1年生がやるべきなんだろうケド……自分が卒業しても続いてて欲しいじゃん。思い出の場所だし」


 大山さんは少しだけ寂しそうな表情で言う。

 僕も新入部員について何も考えていないわけじゃなかったけど、大山さんほど真剣には考えていなかったかもしれない。

 それこそ、今の1年生に任せるべきと思っていたくらいだ。

 でも、思い出の場所が残っていて欲しいという気持ちはあるので……僕は考えを改めるべきだ。


「まぁ、そう言っといてアタシが単に明莉ちゃんと部活で会いたいだけなのもあるケド」


「せっかくいい先輩だと感心して見習おうと思ってたのに……」


「もちろん、さっき言ったのも本音だから。というわけで、明莉ちゃんに渡しといてねー」


 時間になったのかそう捨て台詞を残して大山さんは部活へ行ってしまった。


 帰宅後、明莉に資料を渡すと嬉しそうにしていたので、どうやら僕が聞いてなかっただけでバド部には入るつもりでいたらしい。

 これで入部が確実になったのなら、大山さんの労力は無駄でなかった。

 文芸部の勧誘準備も力を入れなくては。

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