11月29日(火)雨 後輩との日常・姫宮青蘭の場合その12
一日中雨が降り続いた火曜日。
本日から文芸部ではおすすめ本の紹介と座学が始まる。
おすすめ本を紹介する順番についてランダムに決められて、今回は姫宮さんが紹介することになっていた。
「私が紹介するのは『兄が構ってくれないくらいならわたしは世界を滅ぼす魔女になる』です」
そうして、姫宮さんが堂々と提示したのはライトノベルだった。
いや、ラノベも立派な本なので、紹介しても全然構わないのだけど……もしかしなくてもこの本は……
「妹モノです」
姫宮さんは僕の心の声に応えたかのようにそう付け足す。
冊子に載せる作品から言っていたけど、妹モノ好きは単に一時的なブームか何かだと思っていた。
だけど、こういう感じのラノベを持ってくるということは、筋金入りの可能性がある。
「これは私の感覚ですが結構若い人が書いているので昨今の若者受けを知りたい人におすすめできます」
ただ、おすすめポイントについてはしっかり読み込んでいることがわかる解説だったので、聞いている側は妙に納得させられてしまった。
若者受け……って、僕らも若者ではあるんだけど、同年代に受け入れられる文章というのは、目指したいところではある。
「副部長。これを」
そんなおすすめ本の紹介が終わった後、姫宮さんはわざわざ僕のところに来て、先ほどのラノベを差し出してくる。
「えっ? まさか貸してくれるの?」
「いえ。貸してあげてもいいですが見て欲しいページがありまして」
「どこのこと……?」
僕はそう言いながらページを捲っていくと、突然、お風呂シーンの挿絵が目に飛び込んでくる。
それに焦った僕はすぐに次のページを捲ろうとすると、姫宮さんは物理的に手を止めてきた。
「このページです」
「なんで!?」
「副部長が見たいと思って」
「どんな気遣い!? 別にいいから」
「冗談です。実はこのページに関連して聞きたいことがあるんです。今後の参考のために」
「いったい何を……」
「このシーンにおいて妹は小さい頃は一緒に入ってたじゃないと言っていますが実際の兄妹もそういうことはあるんですか」
「それは……このページを開いて聞く必要ある?」
「ありませんね」
姫宮さんは薄く笑いながら言うので、僕は即座にページを閉じた。
「はぁ……お風呂については本当に小さい頃ならあったかもしれないけど、ほとんど記憶にないよ。たぶん、妹が赤ん坊で、父さんと一緒に入ってたとかそんな感じ」
「なるほど。参考になります」
「……姫宮さんって、なんでそんなに妹モノが好きになったの?」
こういう場合、何が好きか答えるのは難しいとわかっているけど、純粋な疑問から僕はそう聞いてしまう。
でも、姫宮さんは迷うことなくすぐ答えた。
「かわいいからです」
「お、おお。思ったよりもシンプルな答えだ。でも、姉妹の話じゃなくて、兄妹の話の方がいいんだ」
「はい。どちらかといえば兄に恋愛的な感情を抱いている妹がかわいいと思っているので」
「それは……確かにそっちでしか見られないか」
「あとは単純にそういう設定の方がドタバタとして面白いからです。日常的にありそうで絶妙にないラインなので」
確かに普通のラブコメと比べると兄妹での恋愛は日常的にはない……いや、あってはならないものだ。
具体的な理由を聞くと、姫宮さんが好きそうだと納得してしまう。
「……ありがとう、姫宮さん。真面目に答えてくれて」
「え。全然お礼を言われるような流れじゃなかったと思いますが」
「いや、好きな理由を聞かれるの、僕だったらちょっと嫌だから。自分で聞いておいてなんだけど」
「自分の嫌がることは人にしてはいけません」
「お、おっしゃる通り……」
「副部長こそ真面目ですね。先に仕掛けたのは私なのに」
「あはは……」
「そういう副部長は嫌いじゃありません」
そう言い残すと姫宮さんはラノベを片手に今度は桐山くんの方に向かって行った。
姫宮さんの言動には振り回されることが多いけど、最終的には素直に話してくれるのであまり不快感は残らない。
むしろ、好きなものを堂々と言えるところは……僕も見習うべきところだろう。
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