11月17日(木)晴れ時々曇り 後援する大山亜里沙その8
疲労感が出てくる木曜日。
けれども、それは学校や塾の授業から来るものではなく、月曜日から続く気になることのせいだろう。
「むむむ……」
その一因であるかもしれないのは、大山さんから向けられる目線だ。
例の件があった翌日の火曜には、僕と路ちゃんの双方から事態は穏便に解決したと報告していた。
でも、そこに違和感があるのを隠しきれなかったようで、恐らく大山さんは何かあったと気付いている。
しかし、それを聞くのが悪いと思っているのか、実際に話を振ってくることはなかった。
「大山さん……どうかしたの?」
「えっ!? いや……うぶクンは昨日の疲れは大丈夫そ? 最近は塾の後でも眠くなってない?」
「うん。今日は大丈夫だよ。身体が慣れてきたのかな」
「塾入ってから結構経ったもんね。昨日は……あっ。なんでもない」
大山さんはそう言いながら自分の手で口を塞いだ。
今のは……路ちゃんと話したことを聞こうとしたんじゃないだろうか。
それくらいは聞いて貰っても構わないのだけど、大山さんは過敏になっている。
「路ちゃんとは昨日もちょっと話したよ」
「そ、そうなんだぁ……へぇ~……」
「まぁ、それよりも印象に残ったことはあるんだけど……大山さんは重森さんって知ってたりする?」
「重森って……重森美里?」
「うん。同じ高校で今は4組らしい」
「知ってるも何も同じバド部だから」
「そうなの!?」
「あー、通ってる塾同じだったんだ。聞いたことはあったケド、あんまり詳しく聞いてなかったから知らなかった」
大山さん静かに納得しているけど、僕は結構驚いていた。
バドミントン部であるなら文化祭のお店に行った時に見かけている可能性も高いけど、僕は全く気付いていなかった。
いや、あるいは見たことがあるのに忘れていただけかもしれない。
「それでさとみんがどうかしたの?」
「いや、その……最近、岸本さんと話すようになったんだけど、昨日は割と熱烈なスキンシップをしてて……」
「あ、それな。さとみん、見た目はキリっとした淑女感あるのに結構ベタベタするタイプだから」
「……女の子同士のスキンシップってあれくらいは普通なの?」
「どれくらいかわからないケド……男子でもプロレス技掛け合ったりするじゃん? そんな感じ?」
「言うほどプロレス技掛け合うかなぁ……」
「まぁ、うぶクンは温厚派だからあんまりやらなさそうだよね。ていうか……つまりはうぶクンはそのスキンシップを見て、なんか恥ずかしくなっちゃったってコト?」
「い、いや……恥ずかしいわけじゃない……わけじゃない」
返答に困ってしまったので僕は口ごもる。
それを見た大山さんは、いたずらな笑みを浮かべた。
「なるほどぉ……うぶクンが文字通りにウブなところが出ちゃったかぁ」
「うっ……その弄り久しぶりに聞いた」
「ゴメンね。でも、うぶクンが思ってるよりは普通だと思う。さとみんはなんかこう手つきのいやらしさはあるケド」
「じゃあ、駄目じゃない!?」
「なんでダメなの?」
「それは……わかんないっす」
「ふ―ん……」
「わ、わかった。これからは普通と思っておくよ」
そんな会話を終える頃には大山さんもいつも大山さんらしい感じに戻っている気がした。
少しだけ恥ずかしい思いはしたけど、結果的に大山さんがフランクに話せたなら良かったと思う。
ただ、女の子同士のスキンシップについては……まだ飲み込むのは難しい。
大山さんも路ちゃんに対してやってたりするんだろうか……いや、何を考えてるんだ僕は。
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