10月9日(日)曇り 桜庭くんと桜庭さんその3
いきなり冬になったと思うくらいに寒い日曜日。
この日は我が家に桜庭くんが遊びに……いや、勉強しに来た。
明莉がそう言ったので、本当に勉強しているだろうけど、僕としては彼女の家で勉強をする感覚がわからないので何とも言えない。
決してひがみや嫉妬心から思ったことではない、念のため。
そんな中、僕が自室からトイレに行くタイミングでたまたま桜庭くんと鉢合う。
「や、やぁ……勉強、はかどってる?」
「はい。順調です」
その会話はこれまでの会話の中でも最も情報量が詰まっていたかもしれない。
そう思ってしまうくらい桜庭くんとは挨拶を交わす程度の会話しかしていなかった。
だけど、先日桜庭先輩の親戚と判明し、桜庭先輩からの扱いから勝手に親近感を覚えていた僕は、もう少し会話してみることにした。
「そういえば、この前さくら……小織先輩と会って話したよ」
「えっ!? な、なにか言ってましたか……?」
「なにかって、言われるような心当たりが?」
「いえ、その……最近、小織姉さんがやたら連絡してくるようになったんです。彼女のことを掘り下げようとしてきて……」
「あ、ああ……」
すまない、桜庭くん。それは僕が桜庭先輩と会って話したせいかもしれない。
「小織先輩は明莉と付き合ってること知ってるんだっけ?」
「いえ、誰と付き合ってるかまでは言ってなかったんですけど……」
そして、桜庭先輩は彼女が明莉であると知っていることを桜庭くんに伝えていないらしい。
そんな対応をされると僕が困ってしまうではないか。
「そもそも親戚に恋愛関係の話すのってめちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか。親が勝手に言って伝わっちゃってたし……」
「それは災難だったな」
「小織姉さん、悪い人ではないんですけど、結構弄って面白がるタイプだから困ってて……あっ、すみません。愚痴みたいなこと言っちゃって」
「いや、わかるよ。小織先輩は普段は真面目感じするけど、性格的には結構曲がったところがあるというか……いや、こういうこと陰で言ってると実際に会った時に返ってくるんだけど」
「わかります! 周りとしては弟的に可愛がっているように見えてるんですけど、受けてる本人は全然そんなことはなくて……」
その瞬間、僕と桜庭くんの心は初めて一つになった。
違う配属の中で同じ戦場で生き抜いた戦友のような感覚があった……経験したことないから適当なたとえだけど。
「ちょっとー 2人して何廊下でだべってるのー」
「……桜庭くん。また受験が落ち着いた時に改めて話をしよう」
「は、はい! あ、あと、来週の文化祭にお邪魔する予定なので、その時もよろしくお願いします」
放っておかれた明莉の声で話は中断してしまったけど、今日の会話だけで桜庭くんとかなり近づけた気がする。
桜庭先輩を勝手に話題として挙げるのは悪いと思うけれど、そこは今度会った時の弄りで勘弁して貰おう。
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