9月29日(木)晴れ 後輩との日常・桐山宗太郎の場合その10

 いつもとは少し違う木曜日。

 その理由は文芸部の部室が開かれるからだ。

 本提出は明日だけど、色々な都合から今日のうちに提出したい人や部室で仕上げたい人のために、今日が予備日として設けられた。

 だから、この日は放課後にノートパソコンを2台だけ前借りして、部室内でも作業できるようになっていた。

 僕と路ちゃん以外は来るのは自由だったので、全員来たわけじゃないけど、伊月さんが最終チェックのために来ていたり、森本先輩が本当に追い詰められている様子だったりしたので、予備日を設けて良かったと言える(後者は特に)。


「はぁ……」


 そんな中、創作とは全く関係ないところで落ち込んでいる桐山くんがいた。


「桐山くん、まだあのこと気にしてるの?」


「気にするっすよ……」


 あのこととは、数日前の体育祭で行われたフォークダンスのことである。

 体育祭前にその話題が出た際、桐山くんは姫宮さんとマッチングするために動いてみると言っていたけど、結果は失敗に終わったらしい。

 その報告自体は火曜日の時点で聞いていたけど、それから2日経ってもまだ凹んでいた。


「詳しいこと聞いてなかったけど、具体的に何をしたの?」


「それは体育祭実行委員に聞いたり、練習での列形成がどんな感じが覚えておいたり、他にも色々と……」


「疑ってごめん。思った以上にがんばってたんだね」


「いや、結果何もなってないっすから……はぁ。なんだかんだ言い出してもう秋になっちゃいましたよ。進歩ないなぁ、俺」


 卑屈になっていく桐山くんを見ると、何故か僕の心も少しずつ痛くなってくる。

 桐山くんとは事情は違うけど、僕は僕で引きずっていることがあるから、共感してしまう。


「ま、まぁ、まだチャンスはあるよ。それこそ文化祭で一緒に回るとかどう?」


「……産賀先輩は仮に好きな人がいたとしていきなり文化祭一緒に回ろうなんて誘えますか」


「……無理っす」


「でしょう!? いや、俺も考えなかったわけじゃないですけど、姫宮さんはどう考えても日葵と回るって言うじゃないですかぁ!」


 今日は2人がいないからか、桐山くんも少し声を大きくして言う。

 いや、元から桐山くんとの会話は内緒話感はゼロなので、下手をしたら周りに察せられている可能性もあるけど。


「そこは……2人がシフトを合わせると言うまでわからないから」


「えっ、まさか産賀先輩が俺のためにシフトの権限を……!」


「しないよ! みんなの都合を考えて組むから! というか、基本はそんなに人数いらないから自由に動ける人の方が多いよ」


「そうっすか……いや、最初から諦めるのは良くないっすね。文化祭……ここがやらねばならぬ時!」


「前にも聞いたような……そういえば、体育祭での活躍に対する反応はなかったの? 桐山くん、すごく活躍してたし」


「……ないっす。そもそもこの前やったと言われるプチ打ち上げに俺呼ばれてない……」


「そ、それは女子会的な奴だったからだと……ああ、落ち込まないで、桐山くん!」


 その後、僕は暫く桐山くんのメンタルケアを行うことになった。

 肝心の小説の方は完成しているらしいので良かったけど、桐山くんは色んな意味でまだまだ大変そうだ。

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