9月3日(土)曇り 隣接する岸本路子

 学校に2日行ってからの土曜日。

 台風が迫って来るせいで天気は安定しておらず、来週の前半はその影響をもろに受けそうな状態だった。

 さすがに夏休み明けてすぐに台風で休みたいと僕は思わないので、何事もなく通り過ぎて欲しいところだ。


 そんな今日は塾に通う生徒向けの説明会がある日だ。

 僕(と路ちゃん)は基本教科の英数だけ勉強することになり、一週間のうちで行く曜日は月曜日と水曜日になった。

 今日集まるのは同じ時間帯で講義を受けることになる生徒で、実際に始まる時は現在の月・水グループに合流する形になる。


「良助くん、こんにちは」


「ああ、路ちゃん。お疲れ」


 塾に到着すると、路ちゃんが入口付近で待っていたので合流しつつ、説明会のある教室へ入っていく。


「おっ、良ちゃんじゃない。ここ通うんだー」


 そう声をかけてくれたのは既に来ていた同じ高校の男子生徒だった。

 場所的に同じ地区の高校生が集まるのだから当然といえば当然なんだけど、何人か知り合いが何人か見られた。


「うん。わりとこのタイミングで通い始める人いるもんだね」


「だねー あっ、隣の子は?」


「文芸部の同級生だよ。今はクラスも同じだけど」


「あー、2人だけの2年生のもう1人の子がこの子なんだ。よろしくねー」


 男子はフランクに声をかけるけど、路ちゃんは僕の後ろに少し隠れ気味で返事を返す。

 最近は表立って喋る姿ばかり見ていたから、人見知りする路ちゃんを見るのは久しぶりだった。

 まぁ、その点もあって同じ塾に通うことになったんだけど……


「良ちゃん良ちゃん」


 その男子が手招きしながら呼んだので、僕は少し近寄る。


「もしかして……彼女とはそういうヤツ?」


「……違うよ。中学生みたいなこと言わないでくれ」


「ごめんごめん。一応の確認だから」


 それはわかっているけど、今の僕にはあまり気分がいい話ではなかった。

 ただ、それで不機嫌になるのも八つ当たりなので、それ以上は何も言わず、僕と路ちゃんは一番前の席に座った。


「路ちゃんは誰か知ってる人いた?」


「ううん。今のところはいない。でも、合流する方にはいるかもしれないわ」


「それもそうか。あんまりどこの塾に通ってるとか聞かないからなぁ。誰かいるんだろうか……」


「良助くん、あの……」


「なに?」


「塾が始まってからも……わたしが隣に座っても大丈夫?」


 路ちゃんは急に申し訳なさそうな顔をする。

 それはさっきの話が聞こえていたのか。

 それとも元からあった不安なのか。

 何が理由かわからないけど、少なくとも路ちゃんは僕が隣にいた方が安心できるはずだ。

 僕は自分が勉強するために塾へ行くけれど、この塾を選んだのは路ちゃんのお誘いがあってのことだ。

 そして、路ちゃんが二度も勉強以外の理由で塾に通えなくなるのを防ぎたい思いもあった。


「もちろん……って、席は勝手に決めていいんだっけ?」


「前の塾は決まった席はなくて、一応それぞれ固定の席みたいなのはあったのだけれど、基本は早く来た人から座っていく感じだったから……」


「そうなんだ。じゃあ、今日の説明で自由だったらそうしよう」


 僕がそう言うと、路ちゃんは安心しながら頷いた。


 それから塾の説明の中では席順については特に説明がなかったので、帰り際に聞くと、来た人から座るようになっていたので、約束通りになりそうだ。

 塾についても台風次第では行けない可能性もあるけど、開始のための準備は整った。

 それが始まれば……僕も勉強の方に気持ちを持って行けると思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る