8月25日(木)曇り時々雨 大山亜里沙との夏遊びⅡその2

 夏休み36日目。何かを後悔する時にはやった直後ではなく、暫く時間が経ってからの方がよりやってしまった感を覚えると僕は個人的に思っている。

 なぜなら僕は昨日の行動を今日になって凄まじく後悔しているからだ。


「何も色々解決してすぐに言わなくてもなぁ……」


 清水先輩の悩みが解決したのは嬉しかったけど、その勢いに任せて僕の希望を押し通してしまった。普段の僕なら絶対にしていない行動だと思う。


「でも、あそこで言わなかったらいつ誘えばいいかわからないし……」


 日曜日はすぐにやって来てしまうので言わざるを得なかったところがある。

けれど、1日置くくらい気遣いをした方が良かった気もしてしまう。別に今日誘ったところで昨日と違う結果にはならなかった……と思われる。


「……駄目だ」


 そんな自問自答を繰り返すほど、僕は舞い上がっているし、混乱してもいた。日曜日には清水先輩と夏祭りへ行く。それはもうほぼ決定してしまった。だから、あとは僕の勇気次第だ。


 こんな時、僕はどうすればネットを調べ始めるけど、出てくる意見は十人十色でどれが正解かわからない。いや、きっと正解がないことが正解なんだろう。

 でも、それはそれとして当の本人はわかりやすい正解を求めてしまうのだ。


 その時、僕の頭に1人の人物が浮かんだ。


『はーい。どしたの、うぶクン』


 それは自称恋愛マスター……と言っていた気がする大山さんだ。電話するかどうか悩んだ結果、僕はかけてみることにした。それについても明日辺りに後悔しそうだけど、この時点の僕は藁にも縋る思いだった。


「…………」


『えっ。無言』


「ああ、ごめん。実は……友達の話なんだけど」


『なになに? そういう始まりって案外自分のコトだったりするんだケド』


「…………」


『また無言!?』


 一旦、冷静になって僕は何を相談すべきか考える。そもそも僕は悩んでいるんだろうか。後回しにしてきたことをはっきりさせたいから言い出したはずなのに、僕はまだ目を背けようとしている。だからきっと、僕が欲しいのは1つの正解ではあるけど、同時に𠮟咤激励的なものを求めている気もする。

 それなら、下手に隠すよりは……


『うぶクンー? もしかして間違え電話だったり……』


「好きな人に告白しようと思うんだ。夏祭りで」


『へー、それはそれは…………ええっ!? マジ!?』


「だから恋愛マスターにアドバイスして欲しいんだけど」


『えっ、ちょっと待って。まず何の前振りもなしに話を進められようとしてるのが意味わかんないし、そもそも誰とどうって話だし、夏祭りへ行くことは既に確定してるし……』


「ご、ごめん、電話する前に言うべきだったと僕も思う」


『ホントだよ!!! 今まで恋愛相談的なものは何回か聞いたことあるケド、こんなパターンは初めてだよ。でも、まぁ……頼られたからには答えましょう』


「あ、ありがとうございます!」


『いや、やっぱ待って。色々聞かないと話進められないわ。まず馴れ初めから聞かせて』


 そう言われたけど、さすがにそこから話すととんでもなく長くなるので、僕は端的に情報を伝える。それを聞いていた大山さんは、最初は驚いていたけど、話が進むに連れて納得しているような頷きになった。


『そっかぁ…………うぶクンが清水先輩と……』


「で、その……これからの心構えと言いますか。何かアドバイスを頂けたらと」


『うーん……がんばれ?』


「嘘ぉ!? それだけ!?」


『いや、だってよく考えたらアタシは後輩と付き合ったことないから参考になること何も言えないなって。ほら、性別の立場的にはそうなるでしょ?』


「それはそうだけど、そうじゃなくても今までのノウハウとか……」


『ないない。あったとしてもアタシは結局別れてるわけだから参考にならないし。反面教師にしたいなら教えるケド』


「そういうやつ! やったら駄目なこととか!」


『でも、それって人によるくない? アタシはダメでも清水先輩には良いってコトはあると思うし、それはうぶクンの方がわかってると思う』


「そ、そうかなぁ……」


『まぁ、誘えるとこまで行ったならあともう一回男気見せればいいだけだって。だから……やっぱりがんばれってコトで!』


 大山さんは爽やかにまとめるけど、意見についてはネットを調べた時とあまり差がなかった。


「……わかった。ありがとう、大山さん」


『えっ? ホントにいいの?』


「うん。なんというか……誰かに聞いて欲しかったところはあるから、少し気持ちが整理できたよ。もちろん、大山さんならもっとしっかりした答えをくれると期待してたところもあるけどね」


『いや、マジでいるようだったら話すよ。飲み物とか取ってきて今から3時間くらい』


「そ、そこまではいいよ。たぶん大山さんの言ったように……僕自身が一番わかってるはずだから」


『……そうそう。でも、ホントにびっくりした~ この夏一番の衝撃だった』


「映画のキャッチコピーみたいだ」


『誇張じゃないから。それじゃあ、日曜日はがんばって!』


 こうして、僕は大山さんに清水先輩への想いを共有した。終わった後に自分でもそこへ相談するのは意外だと思ったけど、気が付くそうしていたのなら僕の心の中で信頼感があったのだと思う。


 これで誘った後悔は無くなったけど、緊張はまだ続きそうだ。

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