8月19日(金)曇り 岸本路子との夏創作Ⅱ その4
夏休み30日目。今日から文芸部の活動が再開する。初めに部長の路ちゃんから改めて文化祭に向けた確認が行われて、それからは各々の作業時間になった。
そんな中、僕は京都から持ち帰ったお土産を路ちゃんと今日来ていた3年生に配ることになる。残念ながらそれは食べられるものではないけど……
「へー ウーブくんのおばあちゃん、そんなにがっつり読んでくれたんだー」
「はい。これが感想をまとめたノートなので、良かったら読んでみてください」
お土産とは京都のばあちゃんが去年の文化祭の冊子を読んだ感想だった。せっかくなら書いてくれた人に感想を伝えたいとばあちゃんが言って、僕がそれを了承すると、すぐにこのノートを渡してきたのだ。
「ほー ちなみにあたしはみんなのペンネーム把握してるんだけど、全部読んじゃってもいいのー?」
「それはまぁ……ご自由に」
森本先輩が部長の時に言っていたことを僕はすっかり忘れていた。
でも、この中に僕の作品についての感想は載っていないから僕としては何も気にすることはない。仮に載っていたらいくらばあちゃんのお願いでも少し見せるのを躊躇していたかもしれない。
「おー、めっちゃ読み込んで貰えてたー というか、ウーブくんのおばあちゃん、書き方が丁寧だねー そういえば短歌を嗜んでるだっけー?」
「はい。短歌も含めてこういう感想を書くのが好きなんだと思います」
「なるほどなー あっ、汐里とか来てない人の感想とか撮っていいー? あたしがみんなに送っておくから」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「また、感想の感想はウーブくんに送るからねー」
そう言った森本先輩は何枚かノートのページを撮ってから返却する。そうして、先輩方にひと通り見せ終わると、僕は路ちゃんのところへ行く。
「路ちゃん、これ……」
「あっ、うん。聞こえてたから説明は大丈夫。読ませて貰っていい?」
「もちろん」
路ちゃんの声は少し弾んでいるような気がした。僕は身内だから多少の気恥ずかしさはあるけど、そうじゃなければ感想を貰えるのは純粋に嬉しいことだと思う。
「……な、なんか凄く褒められてた」
「おお」
「良助くんはこのノート読んでないの?」
「うん。ばあちゃんは読んでもいいって言ったけど、最初に読むのは本人がいいと思って」
「なるほど……あっ」
「ん? どうかした?」
「良助くん、わたしのペンネーム知ってるよね……?」
路ちゃんはそう言いながら少しノートを僕から遠ざける。それで言いたい事はすぐにわかった。
「大丈夫、読まないようにするから」
「そ、そう……? 気になったりしない……?」
「……そう言われると気になるなぁ」
「ち、違うの! 今のフリとかじゃないから!」
「でも、褒められてたんでしょ? だったら、恥ずかしがることないよ」
「それはそうなのだけれど……いや、やっぱりちょっと……」
路ちゃんは抱き抱えてしまった。そんなにべた褒めされていたのか、それとも内容に関係なく僕と同じような恥ずかしさがあるのか……冗談っぽく言っていたけど、本当に気になってきた。
「……良助くん。今、絶対見ること考えてたよね……?」
「いやいや、まさか。ノートは責任を持ってばあちゃんに返すから」
「京都に送り返すの?」
「ううん。今度の長期休みの時に持って行くことになると思う」
「その間に読んじゃいそうな気がするのだけど……」
「……大丈夫、大丈夫」
「大丈夫じゃない感じなのだけれど!」
その日の僕は何故かわからないけど、そんなテンションで絡んでしまった。
この後、路ちゃんからノートを返して貰ったけど、冬雷先生に対する感想には目を通していない。なぜなら、路ちゃんが念押ししながら渡して来たからだ。これで見てしまったら今後の路ちゃんから信頼されなくなってしまう。
それはそれとして、みんなが嬉しそうにしていたことはばあちゃんにも報告させて貰った。ばあちゃんもそれを聞いて嬉しそうな声だったので、感想を持って良かったと思った。
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