6月5日(日)曇り 明莉との日常その50
1日休みの日曜日。気付けば妹の明莉とのやり取りについての記録も随分と長く書き溜めた。劇的なことばかり起こるわけではないけど、少しまとめられる程度の話題が毎週のようにあるのは、僕にとってもありがたいことだ。
「良ちゃん、ちょっといい?」
「うん? どうした?」
「あかりね、彼氏できた」
「へー それは良かっ……はぁ!?!?」
だからといって、その話題を受け止める準備は全くできていなかった。
「い、いつ!? どこで!? どんな輩!?」
「しっー! 良ちゃん、落ち着いて。お父さんに聞こえたら大変でしょ」
「それはそうだけど、僕だって大変だよ! 待って。まずは落ち着かせて」
「いいよ。はい、ひーひーふー」
「いや、それは違うでしょ。すーはー……わかった。彼氏ができたんだね。まずはおめでとう」
「ありがとう!」
明莉はめちゃめちゃ嬉しそうに言う。どんな流れがあったにせよ、明莉がそういう態度になるのなら、このカップル成立は明莉にとってプラスなことなんだろう。それについてはさっきの言葉通り素直にお祝いしたい。
だが、それとは別に聞きたいことは山ほどある。
「で、いつそんな関係になったの?」
「2日前の金曜日」
「1日寝かされてた……」
「だって、良ちゃん土曜授業だったし、落ち着いた今日知らせた方がいいと思って」
「おかげでこれから落ち着かない日曜日になりそうだよ。ということは、母さんにはもう知らせたの?」
「うん。そもそも付き合う前からちょっと相談したりしてたし」
明莉は当然のようにそう言う。まぁ、僕と父さんに言っても仕方ないことだし、女性同士の方が話せることもあるんだろう。
そう考えた瞬間、僕は最近の明莉と関わり深い人物を思い出す。
「まさか、大山さんに相談したことって……」
「おお、良ちゃんするどい」
「……てっきり勉強や受験のことで悩んでると思ってたのに」
「なんで残念そうに言うの。それにそっちも悩んでたのは確かだよ。たまたまその時期が重なって、そのタイミングで亜里沙さんが良ちゃんを通して相談してくれるって流れになったから、恋愛相談もしたの」
「じゃあ、最近のやり取りもそうだったの?」
「そうそう。良ちゃんの話題も出てたのは確かだけどね」
僕はそこが気になっていたわけじゃないけれど、これで大山さんが乙女の秘密だと言ったのにも納得がいった。いや、実の兄より先に妹の恋愛事情を知る友達とはおかしな状況だけれど。
「そうか……そうかぁ」
「……やっぱり良ちゃんにも相談してから告白した方が良かった?」
「明莉からの告白だったんだ」
「うん。それより良ちゃん的には怒ってる感じ?」
「いや、そんなことはないよ。突然のことだから驚いただけで……ううん。明莉の様子が少し変わった時もあったんだから突然じゃないか」
「それならいいけど……良ちゃんがこの調子だとお父さんは帰って来れなくなっちゃいそう」
「その可能性はあるけど……明莉がそうしたいと思ったなら最終的に父さんも納得するさ。別にうちの娘はやらん!ってタイプじゃないし」
「そうかなぁ」
「好きな人に自分から告白するなんて勇気のいることだし、それが成就したのなら本当に喜ばしいことだよ。逆に隠し過ぎても良くないから明莉の心の準備が整ったら言ってあげた方がいい」
「あ、あかりはいつでも言っていいだけど……」
そう言いながらも明莉は少し心配そうな顔をしていた。彼氏ができたことを報告する義務なんてどこにもないのに、わざわざ僕や父さんにそれぞれ言いに来るのは明莉なりの気遣いだと思う。だから、僕も衝撃は受けたけど、嚙み砕いた後はポジティブな感情が湧いていた。
「じゃあ、良ちゃん……言いに行くの一緒に付いて来て貰っていい?」
「もちろん。まぁ……無事では済まないだろうなぁ、父さんは」
「でも、それで彼氏の悪口言ったら一生口聞かない」
「それ、間違っても最初に言っちゃ駄目だぞ……?」
その後、明莉が父さんに彼氏ができた報告する姿を一歩離れた位置で見ていたけど、僕の反応を10倍くらい大げさにして僕の5倍くらい時間をかけてから、その状況に納得した。
明莉の彼氏が僕が知っている子だろうかとか、明莉がこのタイミングで告白したのは残りの中学生活を充実させるためなのだろうかとか、色々考えることは尽きない。
だけど、明莉の悩みが1つ晴れて、むしろ良いことに転じたのだから、僕からはもう一度おめでとうの言葉を送りたいと思った。
……明日辺り、父さんのために何かおつまみを買って帰ってあげよう。
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