4月7日(木)晴れ時々曇り 大山亜里沙と岸本路子

 寒暖差がまだ続く木曜日。2つの式を終えた本日は2・3年生が休み明け実力テストを受ける日だ。出題される範囲は今まで習ったところだし、春休み中も少しは勉強していたけど、やはり長期休みが抜け切っていないせいか、普段のテスト以上に疲れた気がした。


 でも、そんな僕よりも疲れていそうなのは岸本さんだった。その原因の一つは文芸部に新入生が来るかどうかの不安だけど、もう一つは……


「ねぇねぇ、岸本さんはさっきの数学どんなカンジだった?」


「えっ!? あの……その……」


 岸本さんの前の席から積極的に絡む大山さんのせい、なのかもしれない。いや、大山さんの言動自体は新しいクラスで近くの席になった子と仲良くしようとしているだけなのだろうけど、岸本さんはそういう空気にすぐに対応できないタイプだ。


「……うぶクン、ちょっといい?」


 大山さんがそのことに気付いたのを知ったのは昼休みに入った時だった。呼ばれた僕と大山さんは一旦席を外して教室の後ろの方へ下がる。


「もしかしてアタシ……岸本さんに怖がられてる? それとも鬱陶しいって思われてる?」


「ううん、どっちも違うと思う。たぶん緊張しているだけだよ」


「それならいいケド、このまま話しかけるのはダメかな? うぶクンはどうやって緊張されなくなったの?」


「どうやってと言われても、僕も時間が解決してくれた感じだから……」


「そうなんだ……あれ? あの子は?」


 大山さんの視線の先にはちょうど岸本さんの席まで来た花園さんがいた。クラス内の席は遠いけど、岸本さんと花園さんは無事同じクラスになれたのだ。


「花園さんだよ。岸本さんの友達」


「へぇー 花園さんは文芸部……じゃないか。うぶクンと二人だけだから。じゃあ、花園さんは岸本さんと幼馴染的な?」


「いや、高校からの友達だよ」


「おお! だったら、アタシも全然ワンチャンあるってことじゃない?」


「ワンチャンじゃなくて、普通に打ち解けられると思うよ。本当に悪いようには思ってないはずだから」


 僕が念押しするように言うと、何故か大山さんはニヤニヤと笑い出した。


「な、何か変なこと言った?」


「いやね、うぶクンが岸本さんのこと色々知ってるから、それだけ仲がいいんだなーって思っただけ。普通に同じ部活の知り合いってカンジだと思ってた」


「べ、別にそこまで詳しいわけじゃ……」


「だって、友達の友達のことまで知ってるんでしょ? よし。こうなったらうぶクンから盛り上がりそうな話題のヒント教えて貰おうかな」


「そんなことしなくても大山さんならすぐ仲良くなれると思うけど」


「ほほう。それはアタシのことを知った上で言ってるカンジ?」


「そ、そう……なるのかな。いや、これくらいで勘弁して……」


 からかわれる空気になっているので僕が小さくそう言うと、大山さんは笑いを堪えながら頷いた。でも、こういうところがいつか岸本さんにも届けばちゃんと話せるようになると本当に思う。


 それについて僕が手助けすべきかはまだわからないけど……岸本さんに何か聞かれたらそれとなく大山さんが仲良くしたいことを伝えよう。

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