3月24日(木)晴れ時々曇り 明莉との日常その41

 高校1年生の授業としては最後となる木曜日。この日以前に必要な範囲を終えた授業では、2年生以降の話が出たり、先生の個人的な話になったりしていたので、全体的に楽な日だったと言える。


 でも、今日の本題はそこではなく、我が妹・明莉の誕生日だ。誕生日恒例の外食や僕がおごるのは後日になるけど、この日の晩御飯の後にはケーキが用意されていた。


「明莉の分、1個多めに買って来たからな!」


「お父さん、ありがとー どれが一番いいやつかな~」


 気合い十分の父さんに対して明莉はあっさりと受け流してケーキを選び始める。最近はホールケーキよりも色んな種類のケーキを買ってその中から選ぶパターンが多い。そのせいか普通のショートケーキを食べる方が珍しくなっている気がする。


「明莉もようやく14歳ね」


「本当にそうだよ。他のみんなはだいたい14歳なのに明莉は昨日まで13歳なんだもん」


「その分若いって言い張れるわよ?」


「ポジティブだぁ。でも、早く大人になるのもそれはそれでいい感じがしない?」


 明莉の言いたいことは何となくわかる。同学年だから年齢はほぼ変わらないけれど、極端に遅かったり早かったりすると、他の人との差を感じてしまう。それは年齢に限らずどんなことでも思ってしまうものだ。


 そんなことを考えていると、父さんが明莉の前で珍しく真剣な表情になる。


「年齢を重ねることだけが大人になる条件ってわけでもないよ。その間にがんばったり、たくさんの経験ができたりした方が年数よりも大人に近づけることだと父さんは思う」


「おお。これが年齢と経験を重ねた大人の意見……」


「なーんて言うが、男子はいつまでも子どもと言われることもあるし、結局子どもと大人の境目なんて結構曖昧だ。な? 良助?」


「えっ? ああ、うん」


 いきなり振られたので驚いたけど、それは男子の件についてのことだろう。その話題は女子に言われるまでもなく、男子同士でも言うことだ。良くも悪くも大きくは変わらない。


「ということは、女子は知らないうちに大人になってる……ってことかも?」


「ええっ!? 明莉はそんなことないよな? 父さんにはしっかり報連相を……」


「あっ、そういえば今年のバレンタインなんだけど……」


「何!? バレンタインの話なんて全然聞いてないぞ!?」


「うん。お父さんには何も言ってないし」


 誕生日の娘の言葉に翻弄される父は、子どもっぽいようで大人じゃなければ起こりえない光景だ。その姿を楽しげに見る我が家の女子二人は、もしかしたら僕や父さんが知らないところでもっと大人の話をしているのかもしれない。


「りょうちゃん。今日のお祝いの言葉もありがたく貰うけど、和菓子屋の件もよろしくね」


 まぁ、それはともかく、この日記の隙間を支える妹との日常に感謝しながら、心から誕生日を迎えたことをお祝いしたいと思う。


 誕生日おめでとう、明莉。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る