3月4日(金)晴れのち曇り 大山亜里沙の再誕その10

 学期末テスト2日目の金曜日。今日のテストはコミュ英語があったので少しばかり不安はあるけど、毎回そこそこの点数にはなっているので、休日の勉強に向けて気持ちを切り替えていこうと思う。


「うぶクン、今回も現社のテストはいいカンジだったよ!」


 そして、この日のもう一つの科目は現社だったので、テスト終わりに隣の席にいた大山さんがそう報告してくれた。


「おお。それは良かった」


「うぶクンのノートのおかげだね」


「いやいや、ノートの内容自体は板書通りだから……つまりは自分で板書を取れば授業中にしっかり覚えられるのでは……?」


「それは……ううん。うぶクンのノートだから覚えられるんだよ。きっと」


 大山さんは誤魔化すようにそう言った。1年の最後までこのスタンスは貫き通すつもりなのだろう。


「まぁ、役に立ってるなら別にいいけど……」


「うぶクン、ちょっと」


「えっ?」


 大山さんが急に手招きをするので僕は一瞬きょとんとしてしまうけど、そのまま大山さんの傍へ近づく。

 すると、大山さんは耳打ちしてきた。


「あのさ。もう終わったことだから言っちゃうケド……一時期本田にノートを写させて貰ってたじゃん?」


「あ、ああ。そうだったね」


「その時も助かっていたと言えばその通りだし、字とかまとめ方とかが見づらいわけじゃなかったんだケド、テスト前に勉強する時はどうしてか頭に入らなくて。それで今回のテストでまたうぶクンのやつ戻ったらそんなことはなかったから、たぶんノートの取り方的にはうぶクンの方が好きだったんだなーって」


「……な、なるほど」


「だから、うぶクンのおかげって言うのはあながち間違いじゃないと思うんだケド……聞いてる?」


「……も、もちろん!」


 僕は慌てて返事をするけど、唐突に出てきた「好き」という言葉と内緒話をしている空気が妙に恥ずかしくて少々ぼんやりしてしまった。


「あっ。本当に本田のノート自体は全然悪くなかったから」


「わかってるよ。僕も本田くんの見たことあるけど、僕より丁寧に書いてると思うし」


「うーん……じゃあ、何でもこうも違うのかな? 相性?」


「大山さん。僕のことからかおうとしてる?」


「なんで?」


「……なんでもないです」


 僕の問いかけに大山さんが首を傾げているので、今日の言葉選びは狙っているわけじゃないようだ。


 大山さんが前からこういう言い方をしていたかよく思い出せないから、今日はたまたま僕の思春期な部分が引っかかってしまったのかもしれない。

 いや、そもそも耳元で話されるくすぐったさが……と自分で書いていて相当気持ち悪いと気付いたので、これくらいにしておこう。

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