2月17日(木)雪 大山亜里沙の再誕その7
2日ぶりの学校となる木曜日。その2日間で試験が行われていた空気なんて感じさせないほど、校内はいつも通りだった。でも、伊月さんを含めた受験生からすれば慣れない空気はさぞ緊張したことだろう。
「この一般入試が終わると、確か卒業式終わった後に結果がわかって……あれ? もうちょい早かったかな? 私立の結果は結構早かった気がするケド」
そう言った大山さんは後ろの席で他の女子たちと懐かしの受験トークをしていた。確か僕も卒業した後、進路報告という形でもう一度中学校を訪れた覚えがある。
「これで4月にはもう後輩が来ちゃうのかー みんなのとこは勧誘どうするカンジ?」
大山さんたちの話はそのまま部活の勧誘に流れていく……と、これだけ書いていると僕が盗み聞きをしている風になってしまうけど、さすがに後ろの席となると勝手に耳に入ってきてしまった。
「ねぇ、うぶクンと松永……ていうか、文芸部やテニス部は勧誘の話出てる?」
それが盗み聞きにならずに済んだのは大山さんがこちらにも話を振ってくれてからだ。
それに対して先に松永が口を開く。
「男子の間だとそういう話は出てないなぁ。もうちょい先の話だし」
「そっかー じゃあ、文芸部は?」
「こっちもまだ話は出てないよ。でも、うちは部員確保しないといけないからそろそろ考え始めてもいいのかも」
「文芸部は今年の1年生2人だもんね。でも、うぶクンが考えるカンジなの?」
「あっ、いや……実はその……来年度は副部長になる予定なんだ」
「ええっ!? そうなの!?」
「マジか、りょーちゃん!? 俺も初耳なんだけど!?」
大山さんと松永は僕の想像していた以上の反応を見せる。ほぼ確定ではあったけど、言うとしたら本当に決まった時だと考えていたから松永にも話していなかった。
「ビックリしたー 運動部だと夏ごろだケド、文化部はこのタイミングで変わるんだね」
「いや、他の文化部はどうかわからないから文芸部だけかもしれないよ」
「そっかそっかー これからはうぶクン副部長って呼ばないとね!」
「そんな無理矢理言いづらくしなくても……」
それにそういう呼ばれ方は部長で初めて成立する気がする。決して副部長の立場を軽視しているわけじゃないけど。
「松永は交代の時期になったらなんだかんだ部長やりそうじゃない?」
「それで言ったら大山ちゃんも部長任されそうでしょ」
「そうかな? でも……」
大山さんはその続きを言わないまま僕の方へ目線を向ける。それを見た松永は頷きながら言った。
「りょーちゃんは何かしら役職に就きそうなタイプだよね」
「わかるー! さっきは驚いたけど、副部長自体はめっちゃ納得するもん」
それは褒め言葉として言ってくれていると受け取っておくけど、うちの文芸部の場合はそもそも選択肢がなかったから立候補したわけじゃない。
でも、もしも候補者が複数人いて、岸本さんが部長をやりたいという意思を知らなかった場合は……僕自身も何らかの役職に就いていたと思う。向き不向きではなく、安牌として任されるやつだ。
そんな風にこの日の休み時間は新入生や受験に纏わる話がそこかしこで聞こえた。文芸部的には新入生になるべく多く入って貰いたいから、明日はその話をしてみてもいいかもしれない。
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