1月27日(木)曇りのち晴れ 清水夢愛の願望その3
気温としては少しだか暖かくなっているらしい木曜日。この日の僕は放課後に創作のネタ出しに使えそうな本を探すために図書室へ寄ることになる。部活内で催促されることはないけど、時期的にはそろそろ形を整えなければいけないから明日の部活前に動いておこうと思ったのだ。
そんな図書室でいくつか本を探して借りようかどうか迷っていると、読書用のスペースに見覚えがある……背中が丸まっていた。
「……ZZZ」
その後ろ姿は間違いなく清水先輩だけど、どうやら夢の中にいるようだった。昨日といい今日といい寝ている人ばかり見るのは冬休み明けでの学校生活に疲れているから、それともまだ休みの感覚を引きずっているからか。
ただ、図書室は本来寝るところではないし、ここで無防備に寝ているのもどうかと思うので、僕は起こすつもりで清水先輩の方へ近づこうとする。
(いや、待てよ……これ、僕が起こしてるのを見られたらそれはそれでよくないのでは?)
僕は知り合いだとわかっているからいいけど、傍から見ればいきなり男子が寝ている女子に何かしようとしていると思われてしまう可能性もある。今は図書室内にそれほど人はいないけど、もしも清水先輩の寝起きがすごく悪かったら長引くうちにあらぬ誤解を招いてしまうかもしれない。
(でも、桜庭先輩が来てる風じゃないし……)
僕が悩んでいる間にも清水先輩はもごもごと動くだけで、起きそうな気配はない。基本的には静かな図書室だからなおさら起きるタイミングもないだろう。それが清水先輩にとって都合が悪いかはわからないけど、僕は起こすことに決めた。
(清水先輩……! 起きてください……!)
まずは念を飛ばして。いや、ふざけているわけじゃなくて、やっぱり直接触れて起こす勇気はまだ出てこないので、とりあえず試してみることにしたのだ。
僕も時々授業中に眠たくなることはあるけど、そういう時に結構感覚は冴えているもので、先生の視線を感じると何とか意識が戻ることがある。これはたぶん、そういう圧か何かを感じ取っているのだ。
……などと、適当な理屈を語ってみたけど、それで起きられるなら大山さんのような授業中に寝る生徒は存在しなくなるはずだ。先生方も寝てほしくて授業をしているわけがない。
他に直接触れずに起こす方法はわざとらしく物音を立てるくらいだけど、それはそれで他の人に迷惑がかかる。僕が諦めて清水先輩へ近づこうと思ったその時だ。
「はっ……!」
清水先輩は突然顔を上げて目覚める。
「……良助。何やってるんだ?」
そして、その目線はちょうど念を飛ばすために手を前に出したポーズで待機していた僕へ向けられた。
「ははっ。それで起こそうとしていたってことか」
そのポーズに関して上手く言い訳できなかった僕はここまでの経緯を話すことになってしまった。清水先輩は笑ってくれているけど、結構恥ずかしい。
「でも、成功したんじゃないか? 私は起きれたわけだし」
「いや、僕ので起きたわけじゃないでしょう。夢の中で落ちたりしました?」
「ううん。落ちてない」
「じゃあ……誰かに怒られたり?」
「ううん。たまに小織が出てくることもあるけど」
「あるんですか。それで本当は何で起きたんです?」
「それが全く覚えてないんだよ。だから、良助が呼ばれて起きたんじゃないかって」
そう言った清水先輩はからかっている風じゃなかったから割と本気で言っているようだった。
「そんなわけ……」
「自分でやっておいて疑ってるのか。というか、意外だな。良助が念を飛ばすだとか、そういう非科学的なことやってるのは」
「別に僕は現実的ってわけでもないと思うんですけど……あんまり言わないでください」
「いやいや。誰しもやってみたくなるだろう。気を飛ばすとか、超能力とか。もしかして、昔から結構やってたり……」
「だから言わないでくださいよー!」
今度は笑いながらからかう風に言ってきたので、図書室なのにちょっと大きな声を出してしまった。確かに僕はファンタジーやメルヘンは嫌いじゃないし、好きな方だけど、それを現実でやったばかりの今は恥ずかしく思ってしまった。
もしも念飛ばしが成功したというならそれは思いが通じた……と書くとまた誤解を招くことになるので、偶然だったということにしておこう。
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