12月24日(金)曇り イブの日常
クリスマスイブかつ二学期の終業式。前者はともかく後者はしっかりと参加して無事午後からは冬休みに突入できることになった。約ニ週間の休みながらもしっかりと宿題を出している教科もあるので、僕は文芸部の創作と並行してやっていこうと思う。
そんな終業式を終えた午前中。僕はそのまま帰宅して晩ご飯のチキンやケーキを楽しみに待とうと思っていた時だ。
「みんなこれから暇? ちょっとだけぶらぶらしない?」
そう僕らに言ったのは松永だった。いや、この日にお前が何を……と一瞬思ってしまったけど、すぐにその誘いの真意に僕は気付く。
「僕は別にいいけど、松永は大丈夫なのか?」
「うん。集合までまだ時間あるから暇つぶしに付き合って貰おうと思って」
「……なんか一気に行く気が失せたな」
「そんなこと言わないでよー! クラさんはどう?」
「ぼ、ボクもお昼は適当に食べるつもりだったから大丈夫」
大倉くんの返事を聞くと、僕と松永の視線は本田くんに移る。その本田くんは考えているような感じだったけど、少しすると口を開いた。
「悪い。今日はちょっと。冬休み中も会うかもしれないけど、よいお年を」
手を振って帰っていく本田くんを僕ら三人は見送る。露骨に気遣ったつもりはなかったけど、さすがに今日は乗り気になれなかったようだ。
「それじゃあ、男三人でクリスマスの街の景色を巡りますかぁ」
「で、でも、松永くんは集合してから彼女さんと巡った方がいいんじゃないの……?」
「いやいや。野郎同士で巡って見るからこそ楽しい時もあるんですよ、これが」
「勝者の余裕だな」
「えっ? りょーちゃんは敗者だったの?」
ついそう言ってしまったけど、確かに松永を勝者とするのはおかしい。何もクリスマスは恋人たちが過ごすだけの日ではない。
そんな無駄話をしつつ、僕ら三人は松永と伊月さんの集合時間まで周辺を適当に見て回ることになった。クリスマスムード自体は12月に入ってからずっとだったけど、イブである今日は店の人達もサンタやトナカイの恰好をしながら店頭に立っていて、いつもより賑わう声が聞こえている。
「そして、このイブとクリスマスのタイミングには可愛いサンタさんが拝める可能性があるのだ! ケーキの売り子とか」
「野郎同士ってそういうことか……後で伊月さんに言いつけておこう」
「そこは男の友情で何とか許してよ! 茉奈ちゃんはりょーちゃんの言う事だと絶対信じちゃうじゃん!」
「う、産賀くんは松永くんの彼女さんにも信頼されてる感じなんだね……?」
「そうなんだよ。そんな回数会ってないのにりょーちゃんを謎に信頼してるし、見張り役を任せてるみたいでさぁ」
確かにいつだか会った時にそんなことを言われたような気がする。まぁ、実際に報告するかどうかは別として、今日もこんな感じだから見張っておきたい気持ちは何となくわかる。
「まぁ、サンタコスは置いといて、こうやって友達とクリスマスの空気を感じるのも普通に楽しいからそこは勘違いしないように。できれば……ぽんちゃんも一緒だと良かったけどなぁ」
「……ほ、本田くんたちが別れちゃったのって、やっぱりクリスマス前だったからなのかな」
「あー、結構別れやすい時期って言うよね。実際、そこで別れなかったら今日明日のどっちも一緒に過ごさないのはなんか変な感じになるだろうし……って、これから会う予定の俺が言うとなんか不穏な感じになっちゃうじゃん!」
「ご、ごめん! 勝手に本田くんのこと話題に出すのも良くないよね……」
「いやいや。今はそうかもだけど、ちょっと時間が経てば弄るくらいがちょうどいいと思うよ。もちろん、積極的に言うわけじゃないけど」
松永が言う通り、今は本田くんも落ち着きたい時期だろうし、僕らが忘れた頃に本田くんから言い出すくらいの方がいいのだと思う。
だから、僕も本田くんを心配する気持ちはこの日でひと区切り付けられそうな気がした。
「じゃあ、俺はそろそろ集合場所行くわ。年末年始にタイミング合いそうだったらまた遊びに行こう!」
「ぼ、ボクもとりあえずは帰宅するよ」
30分ちょっとの雑談と散策を終えると、年内にもう一回くらいは直接会うかもしれないけど、ひとまず今年最後の挨拶をして僕らは解散した。
僕にとってのクリスマスイブは晩ご飯がいつもより少しだけ豪華になって、家族とプレゼントのやり取りをすること以外は他の日とそれほど変わらない。今日もクリスマスらしい街並みを巡ってみたけど、それは学校で友達と過ごす時間の延長で特別感はそんなにあるわけじゃない。
だけど……今年のクリスマスイブは少しだけ違う空気を感じる日だった。僕に直接何かあったわけじゃないけど、妙に寂しい感じが。
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