12月17日(金)曇り時々雨 ソフィアと藤原その5

 期末テストが全て返却された金曜日。僕の全体の結果としては13教科合計1105点で、赤点も特になかったことから無事に補習を受けずに冬休みを迎えられることになった。


 そんな心に余裕を持ちながら放課後に文芸部の勉強会を終えると、いつも通りの雑談タイムに入った。今日の話題は明日の打ち上げや冬休みに関するものが多い。


「藤原先輩、昨日の朝出た情報見ました?」


「……見た。女の子のキャラデザ……良かった……」


 そんな中、僕と藤原先輩の男子二人はゲームの最新情報について盛り上がっていた。藤原先輩との話す内容はは教室の男子勢と話すようなこととあまり変わらず、部活に関わらない話だとたまにこうやってゲームや漫画の話をしている。他の女子の先輩方もそういう内容を話せる方だけど、内容的には何となく男子同士の方が話しやすい。


「何話してるの?」


 そういう時に容赦なく乗り込んでくるのは主にソフィア先輩だ。別にやましい話はしてないけど、僕と藤原先輩は毎回ドキッとした反応をする。


「げ、ゲームの話です」


「おー もうすぐクリスマスだし、そういうの買う時期だよねー あっ、ウーブ君はクリスマスは何か予定あるの?」


「家で過ごすと思います。例年通り」


「わー、クリスマスらしくていいね! じゃあ……シュウは?」


 一瞬何でそんなこと聞くんですかと思ってしまったけど、どうやら本当に聞きたいのは僕の予定じゃないらしい。いや、これは未だに確定的な情報じゃなくて、今まで見てきたことからの推測でしかない。そういうことで余計なことを考えてはいけないとつい最近も教えられたばかりだ。


「……特にない」


「……そうなんだ」


 二人は意味深な間でやり取りする。いやいや、それでもこれは僕の想像力が豊かなだけだ。同じ空間にいればこういう風な話をすることもあるだろう。


「あのさ、もし……もしもだよ? ソフィアも暇だって言ったらどうする……?」


「………………」


 藤原先輩はすぐに何も言わない。そのせいでこの二人の空間に巻き込まれてしまった僕はどうすればいいかわからなくなってしまう。おかしい。さっきまで僕は藤原先輩とゲームの話で盛り上がっていたのに。


「……なんてね! ソフィアもウーブ君と同じように家族でパーティーしてるから暇じゃないんだけど!」


「……それ、去年も聞いた」


「えー!? だったら、何で早くツッコんでくれなかったのー!?」


「……そう……言われても……」


 笑いながら抗議するソフィア先輩に藤原先輩は態度を変えず答える。それを見た僕は思わず息を吐きだした。本当に何だったんだ今の時間は。


「ウーブくんー……ちょっとー……」


 すると、黒板がある方から森本先輩が小さな声で僕を呼びつけていた。隣にはこちらを窺うようにして水原先輩もいる。


「どうしたんですか?」


「さっきの二人の会話……どうだったー?」


「どうって……クリスマスの話でした」


「それでー!? 結果はー!?」


「なんかボケとツッコミの話で終わりました」


 僕の答えに森本先輩と水原先輩は露骨にがっかりとした。


「産賀、そこはフォロー入れても良かったのに」


「えっ!? さっきの僕が喋っていい空気じゃなかったですよ!?」


「まぁ、それなら仕方ないが……」


「今年も結局何もなしかー いや、明日の打ち上げであるいは……」


「あの……よく知らない僕が言うのも何ですけど、そっとしておいてあげた方がいいんじゃないですか? 今も仲良さそうに話してますし」


 それはほんの少しだけ先輩方を注意する意味も込めていた。もちろん、二人の方が見ている時間が長いからそうとも言えないんだろうけど、僕もそれと似た件で入り込み過ぎたからどうしても言ってしまった。


「まー、スーパーお節介なのはわかってるんだけどねー ほら、あたし達来年は3年で受験生ないし就活生だからさー」


「別にその時期も全く時間がないわけじゃないだろうが、今ほどは暇じゃなくなるだろう。そうすると、あの二人が会う時間も減ってしまうんだ」


「あっ……」


 それに対する森本先輩と水原先輩の言葉は純粋にあの二人を思っているものだった。仮にソフィア先輩と藤原先輩がお互いに意識があっても会う時間がなければ何もなくなってしまう可能性がある。その良し悪しは単純に判断できないけど、外野から見れば勿体ないと感じてしまうものだ。


「すみません。わかったようなこと言って……」


「いや、この場合は産賀の方が正しいよ。結局、私たちがどう思おうが、本人たちの真意はわからないからな」


「しょうがないなー もう少しだけ様子見かー」


 そうやって僕たちが話している間もソフィア先輩と藤原先輩は普段通りのやり取りをしていた。


 男子同士の会話で言えば好きな子の話は出てきそうなものだけど、僕は藤原先輩と会話でそういう話を意図的に避けてきた。

 仮に僕がそういう話を振ることで何か動くとしたら……と少しだけ考えたけど、今の僕にはそうするのが難しい。でも、本当に動くべき時が来たら僕も応援しようと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る