11月24日(水)曇りのち雨 噂は移り変わる
祝日明けの水曜日。この日僕自身には特に大した出来事は起こらなかった。ただ、うちのクラス全体ではとある出来事について盛り上がりそうな空気が出ていた。
「りょうちゃん、本田と大山の件って何か知ってんの?」
「昨日二人でいるの見た奴がいてさー」
クラスの男子二人はそんな質問を僕に投げかける。男子は全員仲が良い方だと僕は思っているけど、本田くんとよく話しているのは僕や松永になってくるから聞いたのだろう。
「さぁ。僕は詳しいことは何も」
「本当にー? まっつんもそんなこと言ってたけど、見て察しろって感じなの?」
「話によれば夏休みに遊びに行ってたとか……りょうちゃんも参加してたんじゃない?」
その辺りの話がどこから広まったのかわからないけど、僕は首を傾げて誤魔化しておく。
「ちぇー しょうがない。本人に聞くか」
「バラして貰ったらもっと詳しい話聞かせてよ!」
そう言って二人が去って行くのを見ると僕は一安心する。僕としては最初から本田くんに聞いて欲しいところだけど、実際に僕が聞く側に立つとしたら同じようなことをするだろう。いくら仲が良くても本人から直接聞くのは少し忍びない。
だけど、本田くんが言いふらして良いとは言っていないから今のところは事を大きくしないようにしている。わざわざ他の人に言ってもいいと聞く方が野暮だろうから、これが正しいと僕は思う。
「産賀くんも大変だねー」
そう声をかけてきたのは野島さんだった。
「何が?」
「私には誤魔化さなくていいよ? 二人が先週から付き合いだしたの知ってるし」
「そ、そうなんだ。情報が早いね」
「いやいや、私なんてまだまだ遅い方だよ。産賀くんはもっと早く知ってただろうから言いたくて仕方なかったんじゃないかと思って」
「別にそんなことはないけど……野島さん、まさか言いふらしてるの?」
「ううん。言いふらしてはない。ちょっと話してるだけ」
それはつまるところ広める一因となっている可能性があるということだ。まぁ、野島さんからすれば本田くんと大山さんはクラスメイトであっても少し距離があるのかもしれないからつい話してしまう気持ちはわかる。
「産賀くんはちょっと前は清水先輩のミスコンの話でも聞かれてたし、意外に噂の最先端を行く人なのでは……?」
「それはないよ。たぶん、野島さんが直近の噂を話してくれても僕は半分もわからないだろうし」
「そう? じゃあ、古文の豊田先生に最近オトコの影が見えるって話は?」
「……マジで?」
「あれ? 豊田先生って文芸部の顧問だよね? あんまり変化とかない感じ?」
「先生が顧問として来るの1ヶ月一回あればいい方だから……」
「へぇ、文芸部だとそういう感じなんだね。これは本当に11月に入ってから出た噂なんだけど……」
それから豊田先生の本当かどうかわからない噂について聞いていると休み時間が終わった。そもそも僕は豊田先生が未婚であることも知らなかったし、普段授業を受けているかつ顧問の先生であるせいか、結構喰い付いて聞いてしまった。
そういう又聞きで話したり聞いたりするのは良くないとは思っているつもりだけど、実際に聞く側に回る時はそうもいかなくなるものだと思った。
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