11月12日(金)曇りのち晴れ 岸本路子との親交その13

 今日の文芸部で何回目かの文化祭の冊子に載せられた作品の感想会が行われ、ダイ・アーリー作の『ギリーの冒険』も対象になっていた。もちろん、僕は作者であるから感想は書いておらず、素知らぬ顔で参加することになる。

 改善点として指摘されたのは数人から表現や登場人物の台詞の部分で、いくつかわかりづらい言い回しがあったようだ。この点は反省して次回作に活かさなければならない。


 そんな会を終えた後の僕は……部室に居座ってボーっとしていた。いや、正確には昨日の夜からずっとそうだった。教室で会った大山さんは全く変わらない様子だったから昨日のことはあれで終わったと思えばいいのに、僕は勝手に考えたり、はたまた考えるのを止めたりを繰り返している。さっきの会でポーカーフェイスを貫けたのも頭の片隅にそのことがあったからだ。


「産賀くん、大丈夫?」


「へ?」


「もしかして、さっきので色々言われて疲れちゃった……?」


 岸本さんは少し心配そうに声をかける。ダイ・アーリーが僕であることを知っている岸本さんならそう考えるところだろう。


「いや、色々言って貰えたのはありがたいよ。それに疲れてる風に見えたのは別のことでだから」


「何かあったの?」


「……き、昨日ちょっと寝不足だったんだ」


「本当に……?」


 岸本さんの言ったことに合わせておけばいいのに墓穴を掘ってしまった。


「うん。今日感想を言われると思ったら何だかソワソワして眠れなくてさ」


「……産賀くん。わたしは色々聞いて貰ってきた側だからあんまり頼れないかもしれないけれど、聞くことくらいはできるから」


「……ありがとう。でも、本当に大丈夫なんだ。今日はしっかり寝るよ」


 僕は最後までそう言ってみるけど、岸本さんに気を遣わせてしまったことはわかっていた。でも、悩みの中心にいるのは僕ではないし、ただの杞憂の可能性もあるから相談はできない。


「それに頼れないことはないから。僕だって困った時は……」


「産賀くん?」


 そこまで言いかけて、自分がそういう返しをよくしていることに気付く。僕としては本当のことを言っているつもりだけど、実際に誰かを頼るのは苦手意識がある。


「いや、早速困ってることがあったんだ。今日の反省を活かして次の作品を書くために少し話を聞いてくれる?」


「わたしで良ければ……ううん、それならわたしも得意だから」


 笑って返してくれた岸本さんを見て、僕は少しホッとする。それから下校時刻になるまで岸本さんと創作について会話を交わした。


 自分の悪いところは知っているつもりだったけど、あまり人を頼らないこともその一つだとわかった。今の悩みとは別に小さなことでもいいから信頼できる人に頼ることも覚えようと思う。

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