10月14日(木)曇り 産賀良助の奮闘

 決意の木曜日……などと大それた始まりになってしまったが、僕はこの日ようやく動き出す。火曜日から送信していた岸本さんへのメッセージは未だに読まれることはない。それがどういう状況なのか確かめるために、僕は1組の教室を目指すことにした。


「……ちょっと付いて来てくれない?」


 ……松永と一緒に。いや、別のクラスに単身で乗り込むのはやっぱり緊張するから楽しんでしまった。


「いいよ。1組ってことは岸本さんに用事?」


「ああ、うん。ちょっと」


「あっ、そういえば岸本さんが書いたやつってどれだったんだろう。りょーちゃんは知ってるんでしょ?」


「松永。僕は今集中しているんだ。少し静かにしてくれ」


「どゆこと?」


 少々雑な対応になってしまったが、まず教室に岸本さんがいるかどうかで次の行動が変わってくる。だから、教室に着いた時点で勝負は始まるのだ。


 しかし、教室に入ってみると、岸本さんの姿は見当たらなかった。以前に訪れたのは夏休み前で、その時は今の僕の席と同じように窓側の一番後ろの席だったけど、今そこには別の子が座って談笑している。


「あれ? 岸本さんいない感じ? 連絡とかしてなかったの?」


「いや、今連絡は見られないんだ」


「なんで? スマホ修理中とか?」


 松永の疑問を受け流しつつ、僕は教卓に置かれた座席表を見る。すると、岸本さんの席はその教卓の目の前、つまりは一番前の席になっていた。もちろん、岸本さんの姿はそこにはない。

 ただ、教室にいなくても学校には来ている可能性はある。そのために机の中を見るのは……アウトだ。さすがに変なやつだし、岸本さんにも顔向けできない。


「ねぇ、岸本さんって今日は来てるの?」


 すると、松永は通りすがりの女子にそんな質問を投げかける。


「岸本さん? 今週は火曜日から体調不良で休んでるけど……」


「そうなんだ、ありがとう。……らしいよ、りょーちゃん」


「ま、松永、何で……」


「いや、単に用事済ませるだけにしては並々ならぬ顔してたから。それに連絡見られないのは普通じゃないでしょ」


 松永にそう指摘されて、僕は「確かに」と納得する。変に誤魔化すつもりはなかったけど、的確にアシストしてくれるとは思わなかった。


「でも、体調不良ってわかったなら良かったじゃん。いや、良くないか。文化祭疲れ的なやつかな?」


「そうだといいけど……たぶん、そうじゃないんだ」


「まぁ、詳しくは聞かないよ。俺は岸本さんのこと全然知らないし」


「そうしてくれると助かる。でも、これからどうしよう……」


「うーん……直接尋ねるしかなくない?」


「だ、だよな……」


「その感じだと岸本さん家は知らないのかぁ。文芸部の先輩はどう?」


「聞いてみる。でも、行ったことあるならそういう話を聞いてると思うけど……」


 そう言いながら僕は教室内を探すけど、岸本さんの自宅を知っているかもしれないあの人も何故かいない。その人のことも女子に聞こうと思ったけど、残念ながらそこで休み時間は終わってしまった。


 その後、休み時間の度に1組の教室に行く僕は完全な不審者だった。でも、その中で知っている人に確認したところ、確かに学校に来ているけど、僕が訪れるタイミングだと会えないという悪い方に偶然を発揮してしまった。


 結局、その日は岸本さんが学校を休んでいることしかわからなかった。

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