10月12日(火)雨 岸本路子との……

 文化祭明けの通常授業日。いつも通り文芸部の火曜ミーティングが行われるけど、その内容は文化祭へ向けたものではなく、今日から3学期までの活動に関する話だった。


 普段の活動日については変わらず火曜日と金曜日のままで、主にやることは二つある。一つは年度末に発行する学園誌へ向けた創作だ。こちらも文化祭と同じように小説や詩などのジャンルを問わず創作するもので、『黄昏』と同じように形としてしっかり残るものになる。

 もう一つはその創作に活かせるような本を共有する日を設けるとのことだ。森本先輩曰く、そんなに堅苦しくするつもりはないので、これまた普段通り雑談を交えつつ、創作に関する知識を身に付ける時間になるのだろう。


 その他にも個人的にコンクール・コンテストへ応募を考える人がいる場合はそれに合わせた会を開いたり、部員の予定が合えば美術展などにも出向いたりすることを考えているらしい。上記の二つと部員のやりたいことを合わせて残りの半年間を進んでいくようだ。


 そして、嬉しい知らせとしては文化祭で展示していたおすすめ本の紹介が見学に来た先生方の目に留まったらしく、そのまま校内に掲示されることになった。今までも似たような展示はあったけど、今回のものは特に良かったと評価されており、読書の秋に合わせて使いたいという希望が出たのだ。


「定期的に作って貰うかもしれないと言われたので、もしかしたら活動の一部になるかもしれませーん。その際は……まぁ、がんばりましょう」


 森本先輩が一瞬だけ言葉を止めた理由が僕にはわかる。今回の展示の制作に関わって、本来なら称賛されるはずの岸本さんが今日のミーティングを休んでいた。事前にグループLINEへ休むと連絡が入ったからいきなり来なくなったというわけではない。


「それじゃあ、今日のところはこれで終わりまーす……ウーブくん、ちょっといい?」


「はい、何ですか?」


「今日は学校で岸本ちゃんのこと見たー?」


「……すみません。わからないです」


「いやいやー 別のクラスだからしょうがないよねー」


 森本先輩はそう言ってくれるけど、同じ1年生なのだから少し足を伸ばせば岸本さんがいるかどうかくらいは確認できた。でも、それを確認するのが何だか怖くて、心配なのに見に行けなかったのだ。


「まー、部活はしっかり来て補講受けるタイプのあたしが言うのもなんだけどさー 部活はどっちでもいいんだよねー それより岸本ちゃんが普段の授業を受けるのが嫌になる方が問題で、部活でそれを思い出しちゃうくらいなら、無理に来なくていいと思うしー」


「森本先輩は……あの時、岸本さんと喋ったんですか?」


「ううん。様子を見に行っただけで話しかけてないよー 難しいよねー ああいう時に声をかけるべきかどうかってー」


「すみません。僕が何か言っていれば……」


「ウーブくんが悪いわけじゃないってばー でも……本当に難しいなー 部長だからってあたしが岸本ちゃんのクラスや家に出向いてとやかく言うのは違うし、かといってこのまま放置するのも間違いだろうしー……」


 森本先輩もどうするべきか悩んでいるようだ。二日目の岸本さんの態度を見ればあまり干渉しない方が正解のように思える。それでも何かした方がいいと思ってしまうのは、文化祭まで半年間過ごしてきた仲間であり、大切な友達であるからだ。


「金曜日の連絡を入れて、その反応を見てからまた考えようかなー ウーブくんは今日はどうするー?」


「……今日は帰らせて貰います。お疲れ様でした」


「ほいほーい。お疲れー」


 部室から出た僕はスマホを取り出して岸本さんとのトーク画面を開く。何を送るべきかわからないけど、何か行動しなければいけない。そう思った僕は「大丈夫?」というひと言だけ送った。


 しかし、そのメッセージに既読が付くことはなかった。

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