8月23日(月)曇り時々晴れ 浮かれた夏の危機

 夏休み34日目。夏休みも残すところ約1週間。そんな日に僕は夏休み最大のピンチを迎えることになる。それは夏休みの課題でも文芸部の作品でもなく……本田くんの恋路だった。


――良ちゃん、頼みがある


 ちょうど昼ご飯を食べ終えた時、本田くんからのメッセージが送られてきた。その頼みとは次の日曜日にある夏祭りに関することだった。この祭りは7月末にあった夏祭りよりは規模が小さくなるけど、ちょうど夏休みの終わり頃にあることから地元ではそこそこ盛り上がる祭りだ。


――大山を誘いたいんだ


 本田くんはそんな祭りをこの夏休みの集大成にするようだ。それは大山さん側の事情は一旦置いといて、良い締め括りだと思う。ただ、さすがに二人きりというのは厳しいようなので、僕も誘われたわけだ。

 しかし、それはいつものメンツで行くという意味ではない。なぜなら松永には伊月さんがいるからさすがに今回の件には誘えなかった。つまり、今まで松永頼りだったところを全部僕たちがやらなければいけない。


――できれば女の子を一人誘って来て欲しい


 そう、本田くんの本題は僕を誘うことではなく、僕とセットで来る女の子をどうするかということだった。いつものメンツで言うと、栗原さんは彼氏がいるから松永と同じで誘えない。一方、斎藤さんは前にも言った通り、僕は松永を通して話すばかりだから僕でも本田くんでも誘いづらい。そうなえると、僕自身の人脈で女の子を連れて来るしかなくなる。


「いや、無理だって!」


 思わず口に出し言ってしまった。松永がどういう気持ちで女の子を誘っているかはわからないけど、僕は松永の気軽に女の子を誘えるような男ではない。そもそも誘えるほど女の子の人脈なんてない……


――五大美人さんは?


 ということを素直に本田くんに送ると、そんな返事が返ってきた。本田くん、口が悪くなってしまうけど、簡単に言ってくれるな。確かに思い浮かぶ候補ではあるけど、散歩と夏祭りでは全然違う。


――無理そうか……


 それでも本田くんの恋路を応援したい気持ちは僕にもある。そんな願いを叶えるために僕が一肌脱げるかどうか。


「…………」


 結局、僕は絶対ではないけど、何とかやってみると言ってしまった。別に僕が誘うのはあくまで男女の組み合わせを作るだけで、大それた目的はない。それにここまで本田くんの恋路に関わってきて、いきなり無理だと言うのは薄情になってしまう。


――ありがとう、良ちゃん


 本田くんはそう言ってくれるけど、その会話が終わった途端、何だか不安になってきた。日曜日が終わるまで心穏やかな夏休みは送れなさそうだ。

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