7月30日(金)晴れ 沙良と汐里その2/岸本路子との夏創作その2
夏休み10日目。8月に入るとお盆明けまでは部活は停止されてしまうので、暫くは部室に来られなくなる。
「おー ウーブくん、久しぶりー」
約一週間ぶりの再会した森本先輩は相変わらずの様子だった。だけど、部室に来ていつも通り黒板の前にいてくれると、何だか安心感がある。
「沙良、補講があって空けていたのにそれだけか」
僕の代わりにと言った感じで、森本先輩の隣に座っていた水原先輩は言う。この二人の並びはミーティングでは見ていたけど、普段の部室で見るのは初めてだった。
「汐里はうるさいなー これから久しぶりの再会を喜ぼうとしたんじゃないかー」
「うるさいとは何だ。お前はいつも……」
「あー わかったわかったー」
そして、森本先輩と水原先輩は思ったよりも距離間の近く見える。こういう小慣れたやり取りは……何だか身に覚えがある。
「先輩方って、もしかして小さい頃からの知り合いですか……?」
「おー よくわかったねー」
「別にそういう話はしていないのに、どうしてだ?」
「僕も似たようなやり取りがする奴がいるので……」
この場合、僕は水原先輩の方で、松永は森本先輩の方になる。つまり、水原先輩は振り回されるタイプなのかもしれない。
「そうなんだー 汐里とは小3年の時からかなー まさか高校で部活まで一緒になるとは思わなかったー」
「それで部長と副部長になるなんてもっと思わなかった」
「無敵のコンビだねー」
「勝手にコンビにするな。だいたいお前はもう少し勉強の方を……」
いや、水原先輩は僕よりもしっかりとしているようだ。これもまた勝手な想像だけど、森本先輩が緩い空気にして、水原先輩が締めるところで締める。そんな感じがするから……無敵とは言わなくてもいいコンビっぽく見える。
「おー 岸本ちゃん、お久しぶりー」
「こら! まだ話は終わってないぞ、沙良!」
森本先輩が来たことで途端に水原先輩らしさが見えてきたような気がする。そんなことを思いながら僕は席に着いて作業を始めた。
◇
それから17時前になると部室が閉められた。次に来るのは二週間後だと思うと、ちょっとだけ寂しく感じる。それは高校生活から始まってから一週間に2回ではあるけど、決まった日には来ていた場所だからだろう。
「産賀くん、お疲れ様」
そんなことを考えている僕に部室を一緒に出た岸本さんが話しかけてきた。思えばこうやって夏休み中に部室へ来ているのも岸本さんから誘ってくれたおかげだ。岸本さんにはいろいろ聞かれる方の立場ではあるけど、こうして働きかけてくれるのは岸本さんの方だから、岸本さんは僕よりも誘い上手の可能性がある。
「お疲れ様。今度会うのは二週間後の……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「えっ?」
「わたし……産賀くんに言ってきたいことがあるの……」
そう言った岸本さんは……何か覚悟を決めた表情をしていた。そうなるほど僕に言っておきたいことについて、思い当たる節はない。
「わたし……」
「う、うん……」
しかも岸本さんはどんどんと僕の方に迫って……とこのように書くと何かが起こりそうな予感がするかもしれないけど、僕は結構冷静だった。なぜなら、岸本さんがこういう勘違いされそうな言い方をする時は、想像と違った別の話をする時だからである。
「今度、花園さんと出かける予定なの!」
「お、おお……!」
でも、その内容はかなり驚く話であった。定期的に花園さんとの話をしてくれたから、二人にとって初めて一緒に出かけるのだとわかったし、何より岸本さんがそこまでいけるほど仲良くなれたのは上から目線になってしまうけど、すごい成長だと思う。
「これも産賀くんのおかげだわ。こんな風になれるなんて夢にも思ってなかった」
「そんな大げさだよ。実際に動いたのは岸本さん自身だし、僕は周りの言葉借りてるだけらから」
「ううん。そうだとしても産賀くんが……」
岸本さんはそこで言葉を止めた。その続きはたぶんまた僕を褒めてくれる内容だったのだろうけど、僕の意見は変わらない。この夏休みまで岸本さんが実行してきたことは、全て岸本さんが自分でそうしようと思ったからできたことだ。
「産賀くん、今度のお出かけについても……どうしたらいいかアドバイスを貰っていい?」
すると、岸本さんはいつも通りの質問に切り替えてくる。友達と初めて出かけたことについて、僕は正確に思い出すことはできない。だけど、僕が友達と一緒にいる時に心地いいと思うのは……
「気を張らないで、自然に過ごせばいいよ。それで楽しんだり、笑ったりできるのが友達と出かけることだと思うから」
その言葉は珍しく周りの言葉を借りず、僕らしく言えたような気がした。
「……わかったわ。ありがとう、産賀くん」
それが岸本さんのためになるかわからないけど、少なくとも岸本さんは岸本さんが思っている以上に積極的になれているはずだ。きっと今度のお出かけも無事に成功するだろう。
こうして文芸部の面々とは暫くお別れになるのだった。
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