7月14日(水)雨のち曇り 本田真治の恋煩いその4

 テスト終わりの通常授業に戻った水曜日。とはいってもその中身はテスト返却ばかりだから気持ち的には楽な感じだ。でも、僕がそう思えるのは今回のテストに勝敗が関わっていないところもあるかもしれない。


「あっ、本田は点数言ったらダメだからね? 全部返却されてから発表だから」


 1時間目の数Ⅰのテスト返却時、大山さんは本田くんはにそう言う。そこにこだわりがあるのはよくわからないけど、大山さんの中にもルールがあるのだろう。



 それに対して本田くんは頷くと、僕の方を見る。


「じゃあ、良ちゃんは何点だった?」


「僕は……」


「あっ! それもダメ!」


 答えそうになった僕を大山さんが手で静止する。理由がわからない僕と本田くんはきょとんとしてしまった。


「うぶクンがアタシらの点数知ったら勝ち負けわかっちゃうじゃん」


「えっ? 大山さんの点数見なければ大丈夫だと……」


「えっー!? なんでアタシの点数は見ないの!? うぶクンの点数気になるんだケド!」


 なんだそういう話か。確かにこの位置にいる僕が二人の点数を見てしまったら例え僕が正確に計算しなくても何となく勝敗を察してしまうだろう。せっかくまとめて発表するのに勝敗を知ってる奴がいるのは面白くない。


「それなら僕の点数だけ見てもいいよ。二人の点数は結果発表の後でも教えてくれたらいいし」


「そこまでして見たいわけじゃないケド……それじゃ遠慮なく」


 僕が差し出したテスト用紙を大山さんは受け取る。テスト後の点数比べなんて本当は何の意味もないのかもしれないけど、自分の点数が高かったことを自慢したり、はたまた自分の点数が低いことを言い訳して正当化したりするためにこの時間は必要なんだと思う。


「うわっ、92点!? そういえばうぶクン数Ⅰ得意って言ってたわ……」


「点数言っちゃうんだ……」


「あっ、ゴメン! でも、いい点数だから聞かれても大丈夫でしょ?」


「じゃあ、大山の点数は良ちゃんより低いってことか」


「そういう探り方しないでよー 確かにアタシの方は低いケド……」


 割り込んできた本田くんと大山さんは楽しそうに喋り出す。この感じもようやく見慣れた光景になってきた。


 それから授業が終わると、再び大山さんは本田くんの方に話しかけた。


「ところで、本田は勝ったら何をお願いするか決まってる?」


 大山さんの質問を聞いて僕は席から離れるわけにはいかなくなった。いい感じの関係が築けている今、本田くんが何を願うのかは純粋に応援する身として興味がある。決して野次馬ではない。


「勝った後じゃなくてもう聞くのか?」


「まぁ、今回は先に知っといてもいいかと思って。ちなみにアタシは新しくできたケーキ屋でおごってもらう!」


「へー、ケーキ屋なんてできたのか」


 今回の大山さんは物理的な報酬を望んでいるようだ。僕の時もそういう系が来ると思っていたからこっちは全然予想できる範囲のお願いではある。


「それで、本田は?」


「オレは……遊びに行きたい」


「えっ? 行きたい?」


「大山と遊びに行きたい」


 一瞬、二人の時間とついでに野次馬していた僕の時間も止まる。本田くん、それはかなり思い切ったお願いで――


「……良ちゃんとか、他のみんなも連れて。夏休み中に」


「えっ!?」


 いきなり肩を組まれた僕は本田くんの顔を見つめてしまう。すると、本田くんは目線で何かを伝えてくる……意図は何となくわかるけど、急過ぎる。


「なーんだ、そういうことかー! それなら別にテストの勝ち負け関係なく、みんなで遊んでもいいよー 夏休みは色々遊びたいし」


「そうか? でも、オレが行きたい希望もあるから勝ったらってことにしとく」


「ふーん。ていうか、さてはうぶクンもグルだったなー! それで今回はみんな休み時間で勉強してたんだ」


「あ、あはは……」


 もちろん、休み時間中にそんな会話が出たことはないけど、本田くんも色々考えた結果、巻き込むしかなかったのだろう。


 夏休みの予定がまた一つ埋まりそうな予感がするけど……ちょっと気苦労しそうな予定に思えるのは気のせいだろうか。

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