6月23日(水)晴れ時々雨 本田真治の恋煩いその3

「うぶクン、ノート……」


「あっ、ごめん。ちょっとお手洗い行きたいから机の上のやつ、勝手に使っといていいよ」


 その日は珍しくお腹の調子が悪かった……わけではなく、実験的なことをしてみた。それは最近は本田くんを巻き込んで大山さんと話している時間で、僕が席を外してみるというものだ。もちろん、この実験は本田くんに相談されたわけじゃなく、僕が独断で行っている。


 劇的に進展して欲しいと思っているわけじゃないけど、僕が隣の席にいると大山さんの男子との会話はひとまとめにされてしまう傾向がある(元々僕が巻き込んでいるのもあるが)。そうなると、本田くんが大山さんとサシで喋ると言うのは結構難しい状況なのだ。


 そこで、この休み時間に僕が抜けることで、どのような結果が出るか見てみようと思ったのだ。


 一応、本当にトイレへ行った後、僕は教室に入らず、扉の横の窓を少し空けて、隠れつつ待機する。


「う、産賀くん、どうしたの……?」


「大倉くん、ちょっとそこ動かないでいてくれる?」


 首を傾げながらもそのまま座ってくれた大倉くんを隠れ蓑にしつつ、真ん中の大山さんと本田くんがいる場所を見る。


(ちょうど僕のノートを返して……おおっ、本田くんも後ろを振り向いてるぞ! そのまま……話してる!)


 ここからでは全く会話の内容はわからないけど、見事に二人きりの会話が成立した! ……だからどうだと言われたら何もないんだけど、僕がいないタイミングなら二人が会話することがわかったのは本田くんにとっても大きな収穫なんじゃないだろうか。


 それからチャイムがなるギリギリまで大倉くんに適当な言い訳をしてから僕は席に戻った。


 すると、本田くんは僕を見るなりすぐに声をかける。


「良ちゃん、大丈夫だった?」


「えっ? 何が?」


「いや、随分長く行ってたからお腹壊してたのかと」


「あー……うん。ちょっとだけ調子悪かったけど、大丈夫。すっきりした」


「なら良かった。良ちゃん、お腹弱いタイプだったんだ」


 本田くんと大山さんに思わぬ誤認をされてしまうことになったけど、それを含めて話題になったならこの実験は成功だろう。がんばれ、本田くん。

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