6月6日(日)晴れ時々曇り 明莉との日常その9
日曜日。大山さんとのテスト勝負に敗北した僕は妹である明莉の写真を撮ってくることになっていた。特にお金もかからず、僕が恥ずかしい思いをする必要がないお願いだったので、サクッと終わらせられるもので助かった……と思っていた。
「明莉、写真1枚撮っていいか?」
「チェキ1枚につき、1500円。サイン付きで2500円になります」
「えっ、チェキってそんな値段するのか」
「ううん。アイドルの詳しいことは知らないからテキトー言った」
軽い小ボケから始まった明莉との会話はいつも通りだけど、すんなり撮らせてくれる流れじゃなかった。流石に目的を言わずに撮るのは良くない。
「実は友達が明莉のこと見たいって言うんだけど、僕のスマホには明莉の写真がなくて……」
「そうなんだ? あかりのスマホにはりょうちゃんの写真あるよ」
「ん? 写真なんか撮られたかな?」
「ほら、これとか」
明莉が見せてきたのは車内でだらしない顔のまま寝ている僕の写真だった。
「なんだそれ!?」
「これは確か去年の年末に京都のおじいちゃんおばあちゃん家へ行った時の……」
「いや、そうじゃなくて。どうして勝手に撮ってるんだ」
「ほら、寝顔ってなんか撮りたくならない?」
まぁ、わからんでも……いやいや、わかっちゃ駄目だ。誰でもすぐ写真が撮れるからこそ、そういう勝手に撮っていいかなという感情は自制しないと。
「兄妹だからいいけど、せめて撮った報告をしてくれ……」
「撮ってました!」
「了解した。それで明莉の写真は……」
「えー いくらあかりが可愛いからって見ず知らずのりょうちゃんの友達に顔を見せるのはなぁ」
僕のことを勝手に撮っておきながらよく言える台詞ではあるけど、昨今はそういうリスクに敏感なくらいがちょうどいいのかもしれない。でも、今回の場合はそれだと僕が困る。
「そこを何とか。写真あげるとかじゃなくて見せるだけだから」
「うーん……そもそもどんな男子が見たいの、あかりの顔」
「いや、男子じゃなくて女子」
「……ええええええっ!? りょうちゃん、女子の友達なんていたの!?」
今年最大級の驚きで返されてしまった。
「別にいるよ、女子の友達の一人や二人くらい」
「二人もいるの!?」
「先輩を含めると、もうちょっといる」
「先輩はノーカンでしょ。でも、それならしょうがないな~ 明莉が一皮脱いであげますかぁ」
ニヤニヤする明莉は恐らく多大な勘違いをしている。あと、皮は脱がないでくれ。
「ちょっと準備するから待ってて!」
「準備って何?」
「写真撮るんだったらいい恰好しなきゃいけないの! 女の子にはいろいろあるんだから!」
それはおっしゃる通りと思って暫く待った……30分くらい。お願いする立場だから何も言えないけど、そんなに気合いが必要なのか。たぶん、大山さんが見たいのはナチュラルな妹像だと思うんだけど。
そして、着替えやら何やらを終えた明莉は完全によそ行きの状態になっていた。
「それでどういう感じで撮る? 全体像? 自撮り風?」
「あー……どういうのがいいんだろう。明莉的にはどう?」
「まぁ、人に見せるってなるとやっぱ自撮りかな~」
「へー じゃあ、任せていいか?」
「おっけー」
明莉にスマホを手渡すと、慣れた手つきで操作して、僕の傍に寄って写真を……
「ちょっと待った! 僕まで写ってないか!?」
「えっ? りょうちゃんも写っておかなきゃダメでしょ」
「ど、どうして?」
「だって、りょうちゃんいないと見ず知らずの女の子の写真持ってきたと思われない?」
言われてみれば確かに……そうか? そこまでして虚構の妹を見せたがるだろうか? でも、こういう写真に関しては明莉の方が詳しいから素直に従っておこう。
「それじゃ、撮るよ~ はい、撮れた!」
「えっ!? はい、チーズとか合図は!?」
「チーズなんて恥ずかしいから言わないでしょ。それより一旦写真こっちに送ってね。いろいろいい感じに加工しとくから」
「へ? ああ、うん。ありがとう」
流されるがまま明莉の言う通りしていくと、数分のうちにいい感じに加工された(僕にはどの辺がいいかわからない)写真がスマホに送られてきた。
「りょうちゃん、今回は無料キャンペーンにしとくから、何か面白い感想貰えたら教えてね!」
そう言い残して自分の部屋へ明莉は着替えに戻っていた。
なぜだろう。頼んで撮らせて貰った側なのに、僕の方がどっと疲れた。意外に知らない妹の写真事情を知った日だった。
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