5月21日(金)晴れ 松永浩太との昔話

 中間テスト前最後の通常授業日。今日は部室へ行かずにそのまま帰宅することにした。部活停止になっているからLINEのグループへ連絡はなかったけど、テスト前のこの日はさすがに部室も開いてなさそうだと勝手に思ったからだ。


「じゃー、今日もりょーちゃんと帰りますか~」


 そんなわけで今週は火曜日以外、松永と一緒に下校していることになる。


「松永は本当にテスト大丈夫なのか?」


「なに? 俺が天才型なの疑ってる感じ?」


「そうじゃなくて、高校になって教科増えたんだし、さすがにいつかみたいな一夜漬けは無理だぞ」


「大丈夫、土日は普通にやるつもりだから~ というかりょーちゃん、よく俺が一夜漬けしたとか覚えてるね」


「目にクマができてたからな。それに昔話なら松永の方がよく覚えてるじゃないか」


「昔話ってそんな昔でも……あるか、幼稚園とかになると」


 ここ数日は久しぶりの二人で下校しているせいか、何となく昔を振り返る話が多くなっていた。テスト前だというのに勉強の話はほとんどしていない。


「幼稚園の頃の記憶なんて薄っすらとしかないよ。僕が覚えてるのは中学の時の話ばかりだ」


「言われてみれば幼稚園や小学生の記憶鮮明な方だわ。まぁ、中学なんてつい最近だし」


「僕が忘れっぽいだけか…」


「そう? それこそ昔の話だけど、俺はりょーちゃんに忘れ物よく借りてた気がするから、むしろ忘れてないタイプだと思うけど」


「それは僕が前日や行く前に確認するから忘れ物しないだけで、記憶の忘れるとは意味がちょっと違うから……」


「あ~ なんかあったなー 小学校低学年の時、俺ん家に遊びに来たりょーちゃんと外に遊びに行ったら、俺ん家のカギ閉めたか気にしてたやつ」


「本当によく覚えてるな……」


 松永に話されたエピソードを振り返ろうとしても家や外で遊んだ記憶が薄っすら残っているだけだった。


「あっ、もしかして」


「どうした、りょーちゃん?」


「松永がテストそこそこできるのって、普段の授業の話とか前日の勉強をそんな感じで覚えているからなのでは……?」


「まじ……? 俺、やっぱり天才じゃん……」


 天才かどうかは置いといて、記憶力がいいのは確かなんだろう。だからといって一夜漬けしていい理由にはならないけど。


「よし! じゃあ、来週のテストも前日に詰め込んで……」


「僕はそこそこって言っただけで、何回か赤点取ってたの覚えてるからな」


「それは……最近の話だけど忘れた」


 そんな調子の松永に僕は再度注目しておくけど、たぶんそこそこ勉強はするだろうし、今回もそこそこの結果にはなるんだと思う。

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