第19話私の兄
今日はジムの無い日なので自宅のジムでサンドバッグを打っていた。
「ジャブジャブ、左ストレート」
オッサンは時々私から抜けて指導する事が有った。大抵は乗っ取られる事が殆どなのだが、たまにこう言う事をする。普段は感じないサンドバッグの感触が体に伝わる。そこに兄がやって来た。
兄さん。
「京子も変わったな。何の心境だ?サンドバッグなんか設置させて」
ボクシング始めたの。
「殴り合いなんか低レベルのスポーツをするんだな。家庭教師も付いたそうじゃないか。引きこもりから脱出か?」
兄の言葉には敵意と毒が含んである。私を傷つけて楽しむのが兄の性格である。
「京子ちゃん、このクソ兄貴、殴ったろうか?」
オッサンもブチギレである。殴る価値すらないよ、と制止した。
お兄さん、私、変わったから。
「まあ大分痩せたみたいだからそれなりの努力はしたんだな」
褒めてるのか、けなしているのか良くわからない。
「まあせいぜい頑張れよ。筋トレも勉強もな」
そう言って兄はベンチプレスを始めた。兄は優秀で、東大にも現役合格。医師を目指している。何をさせても優秀な成績を残せる、いわゆるエリートだ。両親からの期待も大きい。
「なんやねん、このクソ兄貴は。いてもうたれや京子ちゃん」
オッサンがけしかけるが私は動じない。住む世界が違うんだ。
「なんや、兄妹喧嘩もやらんタイプか」
オッサンは呆れている。
「兄妹なんかぶつかり合ってなんぼやろ」
私の兄に対する姿勢にオッサンは気に入らないらしい。
「おい、京子。俺にもボクシングを教えろよ」
兄がサンドバッグの所にやって来た。予備のバンテージを巻いてあげて同じく予備のグローブを付けさせた。ジャブとストレートの打ち方を教えた。オッサンの受け売りだが。しばらくサンドバッグを打った兄は手を止めて言った。
「なかなか楽しい。京子、ボクシングも勉強も頑張れよ。お前ならできる」
なんや、優しい兄ちゃんやんとオッサンは言った。兄の名は啓一郎と言う。
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