第15戦:学園祭という舞台で異母妹が姫神になった件について
1.
コンテストは、どうにか無事(?)に終了したものの――。
明史蕗はちらりと、とある一点に視線を向ける。
「足利くん、大丈夫かしら? すっかり意気消沈してるけど。
せっかく優勝できたのに、ちっともお祝いする雰囲気じゃなくなっちゃったわね」
「そうだなあ。いっそのこと、足利を励ます会にでもするか」
と、竹郎も声を潜めて、どんよりとした空気をまとっている萩に視線を送る。
いつまでもうじうじとしている彼の様子に、明史蕗は若干の苛立ちを覚えながらも、
「もう、足利くんってば。大丈夫だって、そんなに気にしなくても。みんなただの演出としか思ってないから。いつまでへこんでるのよ」
「古河の言う通りだ。甲斐さんに訊いたが、彼女、演劇部の打ち合わせで席を外していて、コンテスト自体見てなかったってさ」
「あら、そうなの? それは良かったじゃない。
牡丹くんにも内緒で決めた演出で、私がああいう風に言うよう足利くんに伝えたって。そういうことにしといてあげたんだから」
「いい加減、元気出しなさいよ!」と、明史蕗に思い切り背中を叩かれながら。萩は励まされるが、然程効果はない。相変わらず死んだ魚のような目をしている。
これ以上はどうしようもないと、二人揃って匙を投げた所で牡丹が姿を見せる。
「おっ、着替え終わったのか。お疲れさん。けど、せっかく似合ってたのに、もう脱いじゃうなんて。もったいないなあ」
「うるさいなあ。いつまでもあんな格好していられる訳ないだろう」
牡丹はむすっと眉間に皺を寄せながら、空いているスペースに腰を下ろす。そして、壇上の方を眺める。
「それで。プログラムの方は、どうなってるんだ? どのクラスの演劇もコンテストも終わったし、今日はもうお開きか?」
「おい、おい、何を言ってるんだよ。これから本日の取り、メインイベントが始まる所だろう」
「メインイベントだって?」
「ああ、そっか。牡丹は編入生だから知らないのか。いいか、これから始まるイベントは、この祭典一の名物でもあるんだぞ」
竹郎は、なぜか得意気に。やはり首を傾げさせている牡丹に向けて、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべさせた。
✳︎
一方、同時刻――。
体育館前の廊下にて。紅葉はふんふんと鼻唄を口遊みながら、軽い足取りで廊下を歩く。
そんな彼女の様子に、隣を歩く菊はやや呆れた表情を浮かべさせる。
「何をそんなに浮かれてるのよ」
「だって、楽しいじゃない、学園祭って。お祭りみたいで。それに、明日の部の公演も、とっても楽しみだし」
ふふっと柔らかく微笑む紅葉とは裏腹、菊はやはりいつもの無関心な顔を突き合わせる。
そんな彼女を余所に、紅葉は体育館の扉をそっと開け。館内に入ると、マイク越しの声が聞こえてくる。
『えー、続きまして、
「あっ、良かった。まだ始まってなかったんだ。私、見たかったんだよね」
「庚姫コンテスト……? なに、それ」
「あれ。菊ちゃん知らないの? 庚姫コンテストって、世間一般的に言うミス・コンテストのことなんだけど、庚姫伝説ってあるじゃない? 明日の劇のモデルにもなってる、伝説に出て来るお姫様――庚姫様の名前から取って、庚姫コンテストって名称なの。
まだ参加者を募集してるみたいだし、せっかくだから菊ちゃん出たら?」
「嫌よ、面倒臭い。そう言う紅葉が出たらいいじゃない」
「私には無理だよ。それに、恥ずかしいし。
今年は参加者が少ないから、実行委員の人も勧誘に必死みたいだね」
そんな紅葉の声に応えたのか、
『なお、庚姫に選ばれた方には、豪華賞品をプレゼントいたします』
と、相変わらずの宣伝文句が続けられる。だが、その“賞品”という単語は、思いの外、効果を発揮し……。
今まで無関心であった菊の耳が、ぴくりと微かにだが動いた。
「ねえ、紅葉。……賞品が出るの?」
「えっ? うん。庚姫に選ばれれば、今年は確かハーゲンダーツアイスの無料券がもらえるはずだよ。それと……って、あれ。菊ちゃん?」
紅葉は辺りを見回すが、しかし、お目当ての姿は見当たらない。
ふと頭を過ぎった考えに、彼女は、
「まさか……」
と、小さな声で呟いた。
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