8.
どうにか出場者も全員揃い。実行委員長の憲美は、相変わらず淡々とした調子でコンテストを進行させる。
早速、アピールタイムに突入するが、
「アピールタイムだと? おい、藤助。お前、一体何をするつもりなんだ?」
問いかける道松に、藤助は、
「何って……。どうしよう、何も考えてなかったや」
困惑顔を浮かばせる。
頭を捻ろうとするが、考える暇もなく。すぐに順番が回ってきてしまう。
「次、三年二組代表・天正藤助くん、お願いします」
「えっと、その……。何も考えてなかったので、俺の番はスルーして下さい」
「スルーって、そんな訳には。
仕方がない。天正くん、スカートの裾を軽く摘まんで」
「えっ。えっと、こう、ですか……?」
「ええ。そしたら少しずつ上げていって」
「えっ!? そんなことっ……」
できる訳がない。
躊躇する藤助だっだが、
「やってくれたら、このお掃除洗剤セットは君のものよ」
と、聞くや否や。ばっと膝頭が出るくらいまで、一気にスカートをたくし上げた。
「そう、そう。その調子。もう少し上げてみようか。あと少し、もう一センチ。次は超強力漂白剤でどうかしら?」
「藤助、お前なあ。ものに釣られるんじゃない!」
「だって、体が勝手に。それに、丁度漂白剤も切れる所で買う予定だったし……」
「戸田、お前もいい加減にしろ。こんな真似をして、一体どういうつもりだ!?」
「どういうもこういうも、私は文化祭実行委員長、学園祭を盛り上げるのが私の役目だからよ。
えー、ここで唐突ですが、明日のクラス企画、我々三年二組は英国風喫茶をします。目玉商品は、『天正家のカレー』です。
名前の通り天正藤助がプロデュースし、見事天正家の食卓に出されている味が再現されています。もちろん、天正道松もこのような執事の姿でお出迎えいたしますので、皆さまぜひお越しください」
「おい、何を悠々と告知なんかしてるんだっ……!」
道松が憲美に喰ってかかるが、その間に、いつの間にか周りもすっかり彼女に喚起されていて、
「藤助くん! その場に座り込んで、軽く足を崩して。目線をこっちに! そしたら高級海苔の詰め合わせを!」
「藤助先輩、道松先輩に寄り添って下さい! そしたら私は、高級茶セットを提供します!」
「ええいっ、寄り添うだけでは生温いわ! そのまま道松先輩に抱き着いて下さい! 帝王ホテルのスープ缶セットでどうですか!?」
あちこちから魅力的なフレーズが飛び交い出す。加えて、実物を前に、藤助は、ぱああっ……! と表情を輝かせる。そんな藤助の耳を道松が咄嗟に塞いだ。
だけど、藤助の瞳はなぜか燦爛と瞬いたままで。おかしいと道松が視線の先を追うと、今度はカンペみたく文字の書かれたスケッチブックを掲げている女生徒達の姿がずらりと目に入り……。
「だーっ! 見るのも禁止だーっ!!
ていうか、お前等、準備良過ぎだろうーっ!!?」
道松の怒声が響き渡る中、彼の苦労が報われたかはさておき。ようやく彼等の持ち時間は終了した。
そんな彼等の様子を傍から見ていた梅吉は、にっと白い歯を覗かせる。
「ふうん。藤助のやつ、なかなかやるじゃないか。けど、この俺に比べたらまだまだ甘いぜ……っと、次は俺達の番か。
おい、桜文。例のものを――!」
その声と共に、梅吉はぱちんっと指を鳴らす。おそらく、それが合図だったのだろう。桜文は徐にどこからか箱を取り出すと、それを梅吉の前に置いた。
その台の上に、梅吉は、とんっ! と片脚を乗せ。扇子で顔を隠しながら。
「見よ、この美脚を――! たとえ男だと分かってはいても、悲しいかな。生足と言うだけで、自然と目がいってしまうのが男の性だ。その上、この日のために、ちゃんと手入れもして完璧だしな。
悪いが今年の優勝も俺がいただきだ!」
深く入ったスリットから、自慢とばかりの脚を覗かせながら。確信した勝利に、梅吉は扇子で口元を押さえながら笑い出す。
けれど。
「えー、そうかなあ。俺は気持ち悪いと思うけど」
「シャラップ!!」
まさかの身内からの非難に、梅吉は持っていた扇子を桜文目がけ投げ付けた。
だけど、
「それより、桜文。例のものをっ――!」
と、直ぐにも開き直り。またしても指の音を合図に、今度は簡易更衣室が現れた。
桜文が用意したその中へと梅吉が入ってから数秒後、内側から、シャッ……と勢いよくカーテンが開け放たれ――。
「えー、俺達のクラスは、ホストクラブをやりまーす。一生懸命接客するんで、ぜひご指名を!」
と、先程のチャイナ服から打って変わり。やや着崩したスーツ姿へと着替えた梅吉が現れた。
「なっ、途中で着替えるなんて……。しかも、女装してないじゃないですか!?」
「ふっ、可愛い弟よ。だからお前は甘いんだよ。これも戦術だよ、戦術。途中で着替えるのは禁止なんて、ルールにはないだろう。
いやあ、女装した姿もいけてるけど、でも、やっぱり普段の俺が一番だからな。さっきまではちゃんとしてたんだ、もう十分だろう。それに、この早着替え、結構大変なんだぞ」
いつもの調子で自身を肯定させようとする次男に、そんなの屁理屈だと思わずにはいられない。だが、牡丹が口で梅吉に勝てる訳がなかった。
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