2.
「ふざけてなんかいないよ。ふざけていたのは二人の方だろう」
「うっ……、それを言うなよ。
あっ、そうだ。国際郵便で鍵だけ送ってもらえばいいんだ!」
「その手も考えたけど、でも、日本に届くまで二、三日はかかるんだ。どうせ天羽さんも三日後には帰って来るんだ。下手に送って郵便事故に遭ったり、遅れたりするより、直接持って帰って来た方が無難で安全だってことで話はまとまったよ。
あーあ。お前達の所為で、わざわざ国際電話までかけたんだからな」
「こんな時まで金の心配なんてするなよ。俺達と金と、どっちが大切なんだよ!」
「だって、お前達は自業自得じゃないか」
ゆらりと冷やかな瞳を揺らす藤助兄さんを前に、返す言葉もないとばかり。道松兄さんと梅吉兄さんは、珍しく喉奥を詰まらせる。
「おい、梅吉。あまり藤助を刺激するな。ただでさえアイツの頭の中は、今の国際電話にどれくらいの金がかかったか、無駄な出費にいらだってるんだから」
「分かってるって。藤助を怒らせると面倒だからなあ。
ったく、なんだよ。本当は久し振りにじいさんと話せて、内心では嬉しがってる癖に」
「でも、どうするんですか? 鍵がないと、いつまでも手錠を外せませんよ」
「ああ、こんなのと三日もくっ付いたままなんて。俺は絶対にごめんだからな!」
「なんだよ、それはこっちの台詞だ! それに、諦めるのはまだ早いぜ。
ふっふっふっ……。鍵がなくて外せないなら、いっそのこと、壊しちまえばいいんだよ!
と言う訳で、牡丹。工具だ、工具! 早く工具を持って来い!」
「あっ、そっか。分かりました!」
梅吉兄さんの発案に、俺は工具を持って来る。
箱の中身を広げ、鎖の部分をどうにか切断させようと、次々と道具を持ち替えては試していくも……。
「なんだこの鎖、滅茶苦茶硬いぞ……! はあ、はあっ……、駄目です。ウチにある工具では、ちっとも切れませんよう……!」
「頑張れ、牡丹! お前だけが頼りなんだぞ。それじゃあ、次はこれだ。これを使え!」
「そんなこと言われたって。んんっ、か、硬い……!」
「ちくしょう! なんでこんな時に、無駄に馬鹿力の桜文がいないんだよ。こういう時に役立てなくて、いつあの馬鹿力を使うんだよおっ……!」
「桜文兄さんだって、まさか自分が留守の間にこんなことが起きてるなんて。きっと思っていませんよ。
部活の特別強化合宿で、群馬に行ってるんですよね?」
「ああ、そうだ。しかも、あと三日は帰って来ないはずだ。学校を休んでまで行くことないだろうに……って、おい、牡丹。まだ切れないのか?」
「はあ、はあ……。済みません、無理です。ギブアップ……」
俺は息を切れ切れに、持っていた工具を放り投げる。
「おい、牡丹。簡単に諦めるんじゃない! お前のその根に持つ性格を、ここで発揮しなくてどうするんだっ!」
「簡単にって、十分奮闘しましたよ。見て下さい、この手を。もう掌が真っ赤になっちゃったじゃないですか」
俺は梅吉兄さんの顔面に掌を突き付け、むすりと頬を膨らませた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます