貴方も心の橙にふれられる。音大管楽器特待生とピアノ講師の素敵な物語。
- ★★★ Excellent!!!
まず、私がこの「橙にふれる」を読むにあたり、音楽の専門的な知識を持っていないことで、多少読み進めることへの戸惑いがありました。
趣味でギターを弾くことはありますが、音楽理論や専門用語は知らないですし、クラシック音楽については時折ショパンのCDを聞くくらいです。
多分きっと、一般的ではない「音大」の「特待生」を取り扱っているこの物語を正確に理解することは難しいのではないだろうか?
そう思いながらも読み進めていくと、魅力的な登場人物が現れ、まるで自分がそこにいる様な臨場感を味わえるほどの濃密な文章が続き、一気に物語に引き込まれてしまいました。
此処までお読み頂けた方には、是非とも手に取って頂きたい素敵な物語です。
読まれる際にはカクヨムの機能である、ビューワー設定を縦組みにして頂けると宜しいかと思います。まるで掌作の単行本を手に取っているような気持ちになれますよ。
以下は私の感想になります。もしよろしければ、ご参考までに。
物語は次年度の特待生試験が始まる前日から始まり、ピアノの講師である羽田葉子が、伴奏相手である三谷夕季との合わせのために待ちぼうけている江藤颯太の姿を見つける場面から始まります。
コミカルな出だしで始まり、少し背伸びをするかのような颯太と、講師足ろうとする葉子のほほえましいやり取りの後、始まる特待生試験。
試験が行われるホールの濃密な空気感や二人の心情、響き渡る音の描写は圧倒的で、まるで自分がその場にいるかのような錯覚さえ引き起こします。
ラストへ向かう途中の一文「この舞台は、きみを祝福するためにある。」はキャッチコピーのまま。
音楽へと向けられる純粋な気持ちが溢れる描写は圧巻です。
物語の結びは目を閉じればその情景が瞼に浮かぶようで、心地よい余白を与えてくれました。きっと、思い浮かぶ光景は一つなのかもしれないけれど。
ここまでの長文をお読み頂けた方は、重ねてこの物語を手に取り、ご一読頂ければと思います。
音楽の知識なんてなくても構いません。
きっと読了後には、私が想像する光景と同じものが見えているのではないでしょうか。
作者の山本しお梨様へ。
素敵な作品を読ませて頂き、本当にありがとうございました。