第77話 はじまりの場所へ2

 イザークはジークハルトに向き直り、礼をする。

 次にヴェルナーが入室して、初対面の彼らをリアはそれぞれ紹介したあと本題に入った。


「イザークに大事な話があって」

「何?」

「パウルは亡くなっていなかったの」

「え……」

 

 ジークハルトがパウルだったと告げると、イザークは呆然とし、くしゃっと髪をかきあげた。


「確かに……殿下は、パウルにそっくりだったが……」


 すべてのことを話せば、彼は最初、信じられないといったように絶句したが、徐々に顔つきは真剣なものとなっていった。


「……正直驚きすぎて、すぐには理解できない。……けど、でたらめを言っているわけじゃないっていうのはわかる」

「イザークはあの当時から、何か変わったことはない? 私達はそれぞれ、異変があったの」


 彼は首を左右に振る。


「いや、俺は何もないけど。あのとき体調が少し悪くなっただけでさ」

「彼は、『光』魔力の『明』寄りだ。外部からの影響を受けにくい。魂は綺麗だし、問題はない」


 ヴェルナーの言葉に、リアとジークハルトはほっとした。


「え……?」


 イザークはぽかんとする。


「ヴェルナーは術者のオーラが見えるのよ」

「そういや今、魔術探偵って紹介受けたな……」


 イザークは納得したように息をつき、両腕を組む。


「じゃ、村に行き、あのときのストーンに精霊王を封じれば、いいってこと?」

「ええ。そうよ」

「わかった、俺も行く」


 ヴェルナーの怪我はすでに快復していたので、リアは彼ら三人と、生まれ育った村へと向かった。


  


◇◇◇◇◇ 


 


 数年ぶりに訪れた村は、外界から隔離されたように、のどかだった。

 

 昔よく遊んだ草原には陽の光が輝き、色とりどりの花が咲いて、蝶が舞っている。


「懐かしいな」

「本当に」

 

 イザークもリアも顔を綻ばせた。


(昔、パウルとイザークとここでよく遊んだわ)

 

 風景画になりそうなくらい美しい。リアは感慨深く、切なさが胸にこみあげた。

 ジークハルトは目を細めて、辺りを眺めていた。

 

 リアの両親と、イザークの母の墓参りをし、以前パウルが暮らしていた場所まで赴いた。

 四人は馬から降りる。


「今は誰も住んでねーようだな」


 そう呟いてヴェルナーは口角を上げる。


「好都合だ」

 

 閉ざされていた門の鍵を、ヴェルナーは手際よく壊した。

 

 敷地内に入れば、最初に、まっすぐに伸びた塔へと目がいった。

 パウルが暮らしていた塔。

 

 ジークハルトは沈黙し、眉を寄せている。

 彼はまだ幼少時の記憶を取り戻していなかった。


 敷地の奥にある、独特の雰囲気を放っている建物へと近づく。

 傍には地下への階段が、あの日のまま存在していた。

 イザークがランタンを手に、先頭に立って階段を降りた。

 

 リアはこくんと息を呑みこむ。

 皆、緊張していた。

 

 下まで降りて、通路をしばらく歩くと、幼い頃にみた扉がある。魔法陣が描かれていた。

 恐ろしさと懐かしさを同時に感じる。


「魔法で鍵がかけられていて」


 リアが言うと、ジークハルトは扉に手を置いた。

 魔力を解放する。

 その場が光り、扉の模様は色を帯び、ゆっくりと開いた。

 前は、三人で扉に触れたけれど、今回はジークハルト一人だ。

 

 室内に入った途端、ジークハルトは頭を押さえ、呻いた。


「…………っ!」

「ジークハルト様……!?」

「……少し頭痛がしただけだ。心配ない」


 彼の顔色は良くない。

 リアは気にかかったが、ジークハルトは毅然と前を見据えた。

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