第76話 はじまりの場所へ1
「その頃のことを覚えていないが……嬉しい、とても」
リアは足が止まる。彼も立ち止まった。
「思い出せないのが、悔しい」
彼はリアの髪に触れ、頬を掌で包み込む。
「オレはオレ自身に嫉妬していた」
ひたむきな眼差しで見つめられ、リアは喉の奥が詰まり、涙が零れそうになった。
「この先、記憶を取り戻すと父は言っていたが……。そうだといい。君と過ごした日々をオレは思い出したい」
リアは、じん、と頭の芯が痺れている。
(ジークハルト様が……パウル……)
信じられないような、やはりというような。
雲の上を歩いているような感じで、ジークハルトと共にヴェルナーの元へと戻った。
「──君の推理通りだ、ヴェルナー。オレはリアと、封印されていた場所へ行っていた。オレが、パウルだった」
ジークハルトが説明し、ヴェルナーは大きく頷いた。
「その場に、やはり二人がいたということですね。運命がくるうのも、精霊王が関係している。今、あなたの魂は世界を創造した主、精霊王と結びついているのでしょう」
帝国で受け継がれている神話。
──ギールッツ皇家の先祖は、大昔、精霊王に愛されていた。だが、あるときより精霊王は意思を失い、破壊神となってしまった。
意識が僅かに残った状態で、精霊王は自らを封じるよう皇家の先祖に指示し、そのまま封印された。
「時とともに、ただの神話となりましたが、実際にあったことだったのでしょう。殿下に呼応し、精霊王は世界の破壊と再生を繰り返している」
ヴェルナーによるとこうだ。
このままでは、ジークハルトの精神は安定しない。
運命はくるい、世界の破壊は繰り返される。
精霊王を封じたのは、ジークハルトの先祖。
彼の魂に宿ったのはよいものの、精霊王自身もそこから出られない。
ジークハルト自身が、精霊王をストーンに封じる必要がある──。
「……その場所へ行く」
ジークハルトが決意を込めて言い、リアも言い募った。
「私も参りますわ」
ジークハルトは心配そうにリアに視線を向ける。
「危険かもしれない」
「私は、『闇』術者として覚醒しております。何かお役に立てるかもしれません」
少しでも彼の手助けをしたかった。
危険でもなんでも、一緒に行きたい。
「おれも同行しますよ。非常に気になりますんでね。その場にいた、もう一人の人物も念のため一緒のほうが良いでしょう」
それで国外のイザークを呼びよせることになったのだった。
◇◇◇◇◇
数日後、イザークは帝都に戻ってきた。
彼は最後別れたときのままである。
突然呼び出されたのに、怒りもしなかった。
「来てくれてありがとう。元気そうで、よかったわ、イザーク」
「リアも元気そうだ。今、皇宮で暮らしているんだな」
彼は、室内を眺める。
宮殿の応接の間は、落ち着いた上品な内装である。
隣室にはジークハルトがいる。まずは幼馴染二人で会えばいいと言ってくれた。
「最初は戸惑ったけれど、大分慣れたの」
「そうか」
イザークは天井を仰ぐ。
「君の顔を見たら、幸せなんだってわかるよ」
精霊王の件で大きな問題はあるのだが……リアは事実、幸せではあった。
「イザークは、新生活はどう?」
「有意義に過ごしてる。父に突然留学を言われたときは驚いたけど」
充実した日々を送っているようだ。
「リア、妹のことでは本当に、すまなかった。国を出た後、父から事情を聞いたんだ。君にとんでもない迷惑をかけた……」
「あなたが謝ることは何もないわ」
そのとき、隣室に繋がる扉が開き、ジークハルトが室内に姿をみせた。
「そろそろ幼馴染の再会を邪魔してもいいか?」
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