第73話 転生のきっかけ1

「どうか話してはもらえないか」


 ヴェルナーは息を吸い込み、慎重に言葉を発す。


「確かに今の説明を聞けば、殿下自身にお話ししたほうがよいと思います。ですが、殿下……あなたにとって良い話ではございません。到底信じられないことかと」

「オレは転生を繰り返している。それこそ他人には信じられないことだろう。どんな内容であろうが、リアが信じる者の話をオレも信じる」


 ヴェルナーは僅かに瞠目し、髪をかきあげた。


「……承知しました。それではお話ししましょう。殿下、あなた自身が、転生を引き起こしているとおれは考えます。リアの転生もあなたの力によるものでしょう」

「オレ……?」


 ヴェルナーは首肯した。


「そうですよ。二人が転生しているきっかけ。それはどれも殿下とリアが結ばれないまま、リアが命をおとす。すると、その世界は壊れている」


 ジークハルトは雅びな眉を顰める。


「何らかの理由で、あなたは世界を破壊し、再生する巨大な力を得ている。リアがあなたと結ばれずに亡くなった場合、殿下は世界を終了させ、あらたな世界を作ってきた。何度も何度も……。強制的にリセットしてきたのです」

「……人間にそんなことが可能なのか……?」


「もちろん不可能です。普通の人間には。

 あなたは、普通の人間ではない。

 おれはリアに、あなたから離れたほうがよいとアドバイスしました。

 ですが前世を聞いた今は、そうは思いません。逆に、リアとあなたは結ばれたほうがいい。

 なぜなら、結ばれなければ、あなたがたは早世し世界は終わるからです。結ばれて幸せになることが、恐らくこのループを終わらせることになる。

 殿下はギールッツ皇家の直系、特別な血をもつ。だがそれだけでは、今のあなたほどの力は得ない。

 殿下は今までの人生のどこかで、巨大な力を手に入れたのです。

 これまでのことを思い返してみてください。何か、思い当たることはありませんか」

「思い当たること……」


 ジークハルトは押し黙って、しばし考えたあと答えた。


「……ない。リアの契約している魔物に触れたが、それはこの生でのみだから、関係はないだろう」

「殿下が前世の記憶を取り戻したきっかけはそれですが、力を得た理由ではありませんね……」


 ヴェルナーは自分の顎に手を置く。


「幼少時からの記憶は鮮明ですか? 記憶を操作されている可能性は?」

「……記憶を操作……?」

「ええ。皇宮にはそういったことが可能な人間がいるでしょう」

「確かに……いる」


 そうだ。メラニーはそれで記憶を消されて、彼女の父の所領で暮らすことになったのだ。


「オレの記憶は、確かに幼少時のものは曖昧だ。まさかオレの記憶も操作……?」


 ヴェルナーのオッドアイが鋭く瞬いた。


「その時期、あなたはきっと何かに接触しているはずです。それだけの力を得るのだから、相当なものだ。世界の魔力の源を宿す精霊王くらいしか、考えられない」


(精霊王……)


「お嬢さん、君もその場にいたはずだぜ」

「私……?」


「そうだ。殿下の四度の生以外にも、君にも前世があるんだからな。君が転生したのは、殿下の力によるものだろうが、君に前世の記憶があるのは、君も精霊王に接触したことがあるからだと思う。きっと『闇』術者として覚醒したのもそれでだ」

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