第25話 警戒
リアは開き直ることにした。
「ヘーネスさんは、賭博場を経営されているでしょう?」
彼は胡散臭そうにリアを見る。
「ここから少し先にある。まだ小さな店だがね。これから大きくする予定」
「あなたは近い将来、帝都一の賭博場を築きますわ。ここだけの話、私、予知夢をみることがあるのです。それでヘーネスさんの名前なんかも実はわかってしまったのです。うふふ!」
「なんか、おかしなお嬢さんだな……」
彼は頬をかく。
「おれのことはヴェルナーでいいさ。君は?」
「私は、リア・アーレンスですわ」
「アーレンス? ……ひょっとして公爵家の?」
「そうです」
ヴェルナーはぎょっとする。
「公爵家の令嬢がこんなとこで何やってんだ? 人買いに攫われでもしたらどうするんだ?」
(前世、十六歳のときに攫われ、売られそうになり、あなたに助けてもらいました!)
リアが感謝をもって彼を見れば、彼はますます怪訝そうにする。
「なんだ? 家の近くまで送ってやるからさ、さっさと帰りな」
一見こわもてだが、彼は優しいのだ。リアは笑みを深めた。
「ふふ。ヴェルナーさんは、いいひとですわ」
「おれをそう言う人間はいないが?」
彼は皮肉に唇を歪める。
「今まで、人には言えないことを色々してきたからな」
「人に言えないことってなんですの?」
「お嬢さんが知るようなことじゃねーよ」
前世でもその辺りは詳しくは教えてもらえなかったのだ。
「なんでこんなとこに来たのか知らんが。術者だし、そう危なくはねーと思うが、中には魔力を無効化する物をもってる奴もいるからな」
ヴェルナーに会えて良かった。
ひとまず帰ることにしよう。
「はい、では今日のところは帰りますわ」
「今日のところは?」
彼は眉を寄せる。
「迷ったんじゃねーのか?」
「違います。今度また会いにきてもよろしいでしょうか」
「会いにって、おれにかよ?」
「そうですわ。私、ヴェルナーさんと、ぜひお友達になりたくって!」
「なんでだよ?」
彼の顔はひきつり、まるで不審者をみる目つきだ。
「将来、色々とお世話になるかもしれませんので」
「はあ?」
ヴェルナーは帽子をとり、くしゃくしゃと栗色の髪をかきあげた。
「この子供、すげぇおかしい。魔力も妙だし、言動も変だ。おれのこと知ってるみてーだし……予知夢ってなんだ……追及すべきか? いやしかし、まだ子供だしな……」
ぶつぶつ呟いている。
どうやら、警戒心を抱かせてしまったらしい。
(やっぱり、来ないほうが良かったかしら。彼と出会うのは、本来六年後だものね。ここで会ってしまうと、冒険者として生きる未来が変わってしまう? そうなると、魔物にも会えないわ)
しかし旅に出たあと、早世したくはないのである。
特殊能力をもつ彼と今から接触しておいて、相談をし対策を立てたかった。
「さっさと帰すべきだ、うん」
ヴェルナーは自身の中で結論を出せば、帽子を被り直した。
「お嬢さん。帰るんだ」
「ヴェルナーさん」
「ん?」
「私は変わっていますけど……数年後、救ってもらえますか?」
リアが切羽詰まって言うと、彼はまた独り言つ。
「……本当変わってる。関わらないほうがいい……」
彼は笑顔をはりつけ、答えた。
「ああ、心配すんな。だからもうこんなところ、出歩くんじゃねーぞ」
リアは彼に家の前まで送られ、そのあと彼は素早く去っていった。
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