エピローグ:二人の弟子と強者達Ⅱ
王都、非戦闘フィールド。
あれからハルにメッセージで呼ばれて、俺達はそこへ顔を出そうとしていた。
元々迷惑だろうと思って声を掛ける気は無かったらしいが、リスナーからの要望で声だけでもと至ったらしい。
声だけってのもアレだから、結局来てるんだが。
ちなみに竜騎士さんは帰ったらしい。話したかったから残念だ。
「……は、配信、先生、私おかしくないでうか?」
「はは、大丈夫だって。一応配慮で動画化とかはしないって言ってるし」
「そ、それならまだ……」
噛んでる事にも気付いていないレン。そりゃ緊張するよな、俺はハルとは配信中に何回も組んだからそこまでだけど。
実際コメントも何も見えないしそんな気にする事も無い。
「最後、ラストショットを飾ったのはレンだからな。堂々とすればいい」
「逆に堂々と出来ませんよ……」
☆
「……と、いうわけで対戦者のニシキさんとレンちゃんでした☆」
《ハル☆ミ 魔弓術士 LEVEL48》
「……あ、ありがとうございました」
「どうも」
終始噛んでいたレンはさておき……インタビュー? はトントン拍子で終わった。
ハルはもう配信者としてかなり上達してる気がする。テンポ良く上手く配信を回してるのを見ると、この様子ならファンも多いんだろうなと思うよ。
「まさか、黄金の意思についてそんな聞かれると思わなかったよ。ハルのリスナーには本当に商人が多く居るんだな」
「はい! 沢山居ますよ……うん、挙手してくれてます」
「そうか――聞きにくいが、今でもRLをプレイしてる人達なのか?」
インタビューにおいて、一番多かった質問が黄金の意思……黄金のオーラの事だったらしい。そしてそれは商人のリスナーからだった訳で。
「そうですよ! 中々取得条件が難しいと聞いて凹んでおられる方が多いですが……」
「はは、確かにな――でも案外取れるものだと思うぞ。毒瓶と増幅毒で能動的に逆境と不屈は発動出来るし」
でも、時間を掛ければ取れるスキルだ。不屈と逆境の状況まで持って行くのは面倒だが不可能って訳じゃない。
「……リスナーさんからは、だからそれが出来るのはニシキさんだからって声が」
「いや、そんな事無いと思うけどな……」
正直そう言われると小っ恥ずかしい。
レンにああ言っておいてあれだがこの場に居るのちょっと辛いぞ。
さっきからその……リスナー達が自分の事を凄い上げてくるから反応に困るのだ。
ぶっちゃけ俺は対等な関係で居たい、同じ商人ならなおさら。
「…………」
隣のレンはカッチコチで石像みたいになってるし、そろそろ切り上げさせてもらうか。
「……そろそろハル、弟子も限界だ」
「え!? わ、分かりました! 最後にニシキさんから言いたい事とかありますか?」
「……え」
まさか、そんなコメントを要求されるとは。
でも断る訳にも行かないし。
……いいや。言いたい事ならあるか。
「ハルのリスナーには、俺のフレンドとか居たりするのか?」
「え――あ、居るみたいです!」
「反応早いな……でもちょうど良かった。個別で話しかけるのは俺としてもきっかけがなかったからさ、今良いかな」
「勿論です!」
グッと親指を立たせるハル。
……そうか、ようやく伝えられるのか。
「なあハル。本当にこの配信は動画化とかはされないんだよな?」
「えっはい。その気はありませんが……」
「そうか、それなら安心だ」
「……ニシキさん?」
「何でもない」
復帰していく皆を見て、声を掛ける事に戸惑ったのは……正直、聞くのが怖かったからだ。
もし気まぐれでログインしただけで、復帰する気なんて無かったらとか。
そもそも俺の事なんて全く覚えてなかったりとか。
『あの時』――俺がシルバーに会う前の事。
どうして行商クエストに一緒に行った時、PK職に対抗しなかった、とか。
「……俺が、伝えたい事は――」
口を開く。
これまで、色んな事があった。
初めて商人ギルドに行って、他職の溜まり場になって絶望した時とか。
五人のPK職から狙われた時とか。
《――「商人って職業、最高です!」――》
思い出す言葉。
結局同職であるシルバーやフレンドの彼らが居たから今の自分が居る。
ハルのリスナー達は俺を褒めて、持ち上げてくれるが――俺はただ、対人戦が好きな普通の一プレイヤーだ。
人間的にも未熟で、一人だったらここまできっと来れなかった。
もしその時この世界に存在する『商人』が俺だけだったなら、きっと違う、悪い選択肢を取っていたはずだ。
「その……王都に居る同職の姿や、毎日レベルが上がっていくフレンド欄を見て、いつも元気付けられてたよ。俺は一人じゃないんだって」
「どんなきっかけがあったのか分からない。ただの偶然だったのならそれでも良い」
「俺がここまで来れた理由は、君達が復帰してくれたからだ」
「……だから」
ハルのカメラに目を向ける。
ずっと言えなかった事。
直接伝えるには勇気が足りなかったが、ここでなら大丈夫。
「『このRLに、戻ってきてくれてありがとう』」
俺はそう言い、頭を下げた。
「じゃ――ハル。これぐらいで。行くぞレン」
「え、ニシキさん、まだ――あ……」
俺はカメラから背を向けた。
……顔が熱い。
今の表情は誰にも見られたくないんだ。
「……ニシキさん顔赤いですね」
「やめてくれ」
「あはは」
そして。
なぜか俺の顔を見て復活したレンと共に、俺達二人はその場を去ったのだった。
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