決着


『こわい』

『怖いよぉ』

『死刑宣告か何か?』



「っ、ふふっ、本気ね、ニシキ君……」



廃墟の影。

その静寂を紛らわす為に声を発した。

脚は震え、腕はまともに動いてくれない。


でも、私は立ち上がった。

どんな状況でも強くあれる貴方を見ていたら――自分も、そうならなきゃって思うのよ。


何よりも、どんどんと強くなっていく貴方を私達はここまで追い詰めた。

なのに諦めるなんて絶対嫌!



「――!? ハル……」



もう、逃げも隠れもしない。

魔弓を握り締め、廃墟から飛び出して彼の前へと現れた。


ニシキ君のHPバーは残り5%。

毒は解毒薬でしっかり治している。

何としても、一撃入れないとダメってこと。



「ふふっ、来て下さいよ☆」


「ああ……!」



後衛の攻撃は来ない。

今、援護射撃でもすれば万が一ニシキ君に当たっちゃうかもしれないもんね。

もしかしたら私だからっていう同情もあるのかも。


……分かるわよレンちゃん。でも――こんな時こそ容赦ゼロで射抜かなきゃ。

また次会った時に教えてあげるわ。



「っ――」


「『スラッシュ』」



斧を振り上げた瞬間、私は後ろへ跳ぶ。

ローブを擦る黒斧の刃。


決してカウンターなんて考えてはならない。

今の私に出来るのは、逃げて機会を伺う事だけ。



「――『パワースロー』!」


「やっ!」



跳んだ先、私の足元へ投げられた黒斧。

ニシキ君ならそうすると思っていたから――思いっきりジャンプし回避。



「――」



だが彼は、その隙を見逃さずダッシュし私へ接近。


でもこれも私は読んでいた。

あの時、初めて会ったクエストで――PK職へ同じ動きをしていたもの。



「えいっ――!!」



至近距離。

黒斧を回収し、一撃を入れようとしたのだろう。

きっと彼は、また私はニシキ君から逃げて……距離を取ろうとすると判断したのだろう。

『普通』ならそうだ。魔弓術士の基本として、近接戦闘なんてしてはいけない。

勝ち目なんて無いから。



でも――私は、前へと飛び込んだ。



ニシキ君の胸の中へ。

黒斧を回収する前に。

タックルとは言えない様な力無いそれでも。



「な――」



不意は取れた。

そのまま腕を背中に回し、私は彼を抱き締める状態に。




《――「んじゃ、ハルの場合は基本距離を取りながら、出が早い風属性の魔法を主に戦うのか」――》




きっと貴方は――昔の、私のこんな些細な言葉も覚えてるのよね。

ありがとう。

あの時、偶然と言えど。

貴方に出会えて本当に良かった。

対人戦闘を初めて良かった。



だって私、今すっごく楽しいもの!



「『ウィンドアロー』!!」


「――なっ!?」



終わりよ、ニシキ君。

背中に回した手に持つ魔弓に、その風の矢は現れて――



「そうか――やるな、ハル……」

「……ふふ、一緒に死にましょニシキさん☆」



《経験値を取得しました》



――彼の身体へ突き刺さり。

ニシキ君のHPをゼロにして。



「――――『アイアンボール』……!」



ほぼ同時に向かってきたその鉄球が――私のHPも削り取った。



「レンちゃんの事、褒めてあげてくださいね☆」



《貴方は死亡しました》

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