エピローグ:たった一人の英雄譚

◇◇◇


801:名前:名無しの魔法剣士

色々あったけど楽しい配信だった


802:名前:名無しの魔法剣士

……一応コレ、俺達がダンジョン挑む時の参考にってことだったんですけどね


803:名前:名無しの商人

普通に楽しんじゃったあ……


804:名前:名無しの商人

やっぱ同職が頑張ってるの見る方が攻略動画とか見るよりいいわ


805:名前:名無しの商人

商人で動画上げてる奴とかココの一号ぐらいだもんな


806:名前:名無しの商人

何はともあれお疲れ!


807:名前:名無しの商人

ありがとー楽しかったー!!


あと冒険者さんにも感謝!!


808:名前:名無しの商人

超絶感謝!


809:名前:名無しの商人

商人最強!商人最強!




◇◇◇





「……」



ログアウトを押して、俺はボーっとディスプレイを眺めていた。


……商人に魔法剣士、魔術士とのダンジョン。

溢れかえるそのレスを。



《――「アンタのおかげで助かったよ」――》

《――「初のダンジョン配信は大成功だ!」――》



「……何だってんだよ」



自分で自分が気持ち悪く感じる。

さっきまでの俺は何だったんだ?



《――「なあ、良ければまた俺達と」――》

《――「……俺忙しいから。じゃあな」――》



思い返すその会話。

その後俺は、逃げる様にダンジョンから離脱……ログアウトを押した。



「なんで後悔してんだよ。俺は」



『商人』と『冒険者』、だろ?

アイツら商人は昔、せっかく差し伸べた俺の手を取らなかった。


そしてその後。颯爽と現れた一人の商人に次々と救われていったんだ。


……それが嫌だった。

醜い嫉妬で結構。スレを荒らしてんのもそれが理由だ。

アイツらが、俺は嫌いなんだから。


――なのに。

俺はどうしてあの時、あんなにも心の底から楽しんでたんだ?



《GAME START》


《ボウケンさん、RLの世界へようこそ!》



「……はあ」



やる事も無く、フレンドと狩りでもするかとログインする。

再び出る深いため息。


……もうこれから、あんな偶然は起きない。

今日でもうアイツらとは終わりだ。


商人スレを荒らすのも、もう止め――



《カトー様からフレンド申請が届きました》



「……は?」



突如現れたその名前。

先程の商人パーティの魔術士だった。



《カトー様のフレンド申請を受諾しました》



……『違う』、と自分に言い訳をする。

変な期待をしているわけじゃない。

これは――彼が強職の魔術士だから受諾したんだ。『価値』がある奴だから。



『今会えるか冒険者さん。ちなみにこっちは一人だ、安心しな』

『ああ……?なんだよ』

『良いから。ちょっと話そうぜ』






「よっ」


「……わざわざ何だ?早くしてくれよ」



彼は本当に一人だった。

そのまま、王都の露店エリアのベンチに座る。



「こんな奇跡あるもんなんだな……アンタ、商人スレの荒らしだろ?」

「!?な、何を――」



唐突に告げられたそれ。

俺は、頭が真っ白になりかけた。



「ははっそりゃ分かるって。じゃなきゃ上級職の商人のスキルにあそこまで詳しい訳がない」

「……それは」


「後、普通なら『商人』と『魔術士』があんなに仲良くしてたらちょっとは違和感を抱くはずだって」

「……っ」

「はは、他にも色々あるんだが――別にアンタを問い詰めたい訳じゃないんだよ」



目の前の魔術士は、笑ってそう言う。

……正直言えば、ここから一刻も早く逃げ出したかった。



「俺はただ、礼が言いたかっただけなんだ」

「……は?」

「もしアンタが、ずっと昔からスレに居てくれなかったら――そう考えてさ」


「あぁ?だから何言ってんだよ」

「俺はアイツら商人の大ファンで、よく昔のスレも見る。ニシキの大鹿配信とか今見ても……ってそれは良いか!まあ、当然『プレミアム』なんだわ」

「――!」



続ける彼。

当然それは――



「過去ログ全部見たよ。今商人スレが残ってるのは、アンタのおかげなんだよな」

「わざと言葉を荒くして。自分に反応させる様に煽り続けて」

「スレッドはずっとレスが無きゃ落ちちまう。だからアンタは――」



畳み掛ける魔術士の言葉。

俺の背中に、冷たい汗が流れていく。



「――止めろ!そんなんじゃねえ……!そもそも無駄にスレを伸ばした所で何も」


「ああ。でも結果『意味』があった。なんたって、そこに『彼』が現れただろ?」


「っ……」


「もしあの時スレッドが残っていなければ。ニシキの配信の姿をレスする奴も、反応する奴も居なかったかもしれない」


「……ち、違うって言ってんだろうが!!さっきから気持ち悪ぃ妄想垂れ流してんじゃねぇ!」


「はは、当の本人がそう言うならそれで良い。でも最後にコレだけ言わせてくれ」



もう訳が分からない。

彼がそう言う意図も。この俺の感情も。



「――ありがとう。今『商人達』が、『俺』がここに居るのはアンタのおかげだ」


「っ――!」



木霊する声。

それは、隠していたモノを照らし出す。



「なん、だってんだよ……」



スレを荒らしている理由。


……俺はただ、彼らに忘れて欲しくなかった。孤独な『冒険者』である自分を。

盛り上がっていくスレッドの中、希薄になっていく自分を。

それが怖くて……いつの間にか、『荒らし』行為はもう止められなくなっていて。



……ただ、それだけだったんだ。

その為に俺はずっと間違いを続けてきた。




「……なんで、お前は。そこまで俺に……」




だからこそ、そんな言葉を掛けられるなんて思っていなかった。

途切れながら――辛うじて声を出していく。



「ん?」



足を止めて、カトーはオレに向けて口を開く。



「見てみたいんだ。もう一度、さっきの光景を」


「――!」


「『商人と冒険者が組んだら最強』、そうだろ?」


「……っはは、いつのレスだよそれ」



地面へとやっていた目線を、俺は上へ。彼へと向けた。

昔のソレを思い出しながら――



◇◇◇


109:名前:名無しのプレイヤー

また斧で矢を弾いてるwww


110:名前:名無しのプレイヤー

コイツ何者だよ


こんなん、もう『戦闘職』やん……


111:名前:名無しのプレイヤー

やばいやばいやばい


112:名前:名無しのプレイヤー

この商人強すぎわろたwww


113:名前:名無しのプレイヤー

何が起こってんだよこれww

俺達こんな事できる職業だったっけ……


114:名前:名無しのプレイヤー

気持ちいーーー!!!!!!!


115:名前:名無しのプレイヤー

商人最強!商人最強!


◇◇◇



――記憶の中、過去の一時。

自分の荒らし行為への反応も落ちていく、死ぬ寸前のスレッドは。

突然現れた、一人の商人により息を吹き返した。


そしてまた――その彼を見て、拳を強く握り込んでいた俺も居て。



《――「……商人って、あそこまで戦えるのかよ」――》


《――「なら、俺ももっと戦えるようになれば何時か……」――》



もはやあり得るはずの無い、絵空事の物語。

それを思わず思い浮かべていた。



『商人』と『冒険者』がこの世界を切り開く――そんな光景を。



……この上位職を選んだ理由も含め。

俺もアイツらと。

RLを、歩いていきたかったんだ。




「――『俺達』は、いつでもアンタを歓迎するぞ」




降りかかる彼の言葉。

それは暗闇の中の、彷徨さまよう俺を引き上げるかの如く。

目の前。差し伸べられた魔術士の手を。



「……タマになら、組んでやるよ」


「ははは!そうこなくっちゃな!!」



控えめに、だが力強く。

俺は手に取ったのだった。









◇◇◇


970:名前:名無しの商人

今日の配信でモチベが更に上がりました ありがとうございます


971:名前:名無しの魔法剣士

やっぱ魔術剣士にするかあ……


972:名前:名無しの魔法剣士

何げドロップアイテム凄かったよな

普通ダンジョンってモンスターからドロップしないはずなんだがw


973:名前:名無しの商人

>>972

冒険者のスキル効果だと思う

G落とさないけどアイテムは落ちる(泣)

職業格差!!!!!


974:名前:名無しの商人

……そういや結局アイツ全く見ずに終わったな


975:名前:名無しの商人

普通あーいうのって弱ってるとこ突っついてくるイメージあんだけど(今日のダンジョンとか特にw)

何だかんだで昔から今までずっと居るのよね


976:名前:名無しの商人

やっぱり俺達に混ざりたいだけ説


977:名前:名無しの商人

可愛いヤツだな!

ほらほらおいでおいでwwwww


978:名前:名無しの商人

……アイツがこの流れで来るとは確実に思えねえ


979:名前:名無しの商人

ってもう1000近いじゃんwwww 次スレ次スレ!!


980:名前:名無しの商人

↓立てやした↓


【皆で作ろう】RL商人専用スレ 四十八G目 【シルクロード】

https://ncode.syosetu.com/n8329gj/



981:名前:名無しの商人

>>980

You Know


982:名前:名無しの商人

>>980

カッコいい♡


983:名前:名無しの商人

ん?なんかこのスレタイどっかで見た事あるような


984:名前:名無しの商人

そんな偶然あるか??


985:名前:名無しの商人

ってもう1000wwwww


986:名前:名無しの商人

おーい冒険者戻って来いよーーーーーお前のツンデレが好きだったんだよ!!


987:名前:名無しの商人

別に戻ってこなくても良いんだからね


988:名前:名無しの商人

1000ならレアドロで大富豪


989:名前:名無しの魔法剣士

>>988

早すぎwwwww


990:名前:名無しの商人

1000なら俺にレアドロ


991:名前:名無しの商人

だからさwwwwお前ら強欲過ぎなんだわ

そんなだから一つもレア拾えねーんだよね


1000なら俺にレ(ry


992:名前:名無しの商人

1000なら更に商人の隠しスキル発覚


993:名前:名無しの魔法剣士

1000なら俺達に隠しスキル


994:名前:名無しの商人

>>993

君達もう既に結構強いよね??

俺らに譲れ#####


995:名前:名無しの商人

1000間近で言い争うなwww


996:名前:名無しの魔法剣士

全てのMPとGを消費して発動する馬鹿火力スキルはよ

名前はオールマジックゴールドエクスプロージョンクリティカルにしよう


997:名前:名無しの魔法剣士

うわあああああ1000なら魔術士最強!(攪乱)


998:名前:名無しの商人

質問良いですか?


999:名前:名無しの商人

>>998

どうぞ



















1000:名前:名無しの冒険者

1000なら冒険者最強

……商人もな











↓作者あとがき↓



と、いうわけで単行本記念の閑話終了です。お付き合いくださり本当にありがとうございました!

人生初の単行本発売でしたが、多くの応援の声本当にありがとうございました。ぜひお手にとって頂けると嬉しいです!



単行本作業も無事完了したので、本編は今現在せこせこ書いております。完成度で言えば半分ほど?もう少しお待ち下さい。



コミカライズ(2巻では私書き下ろしのシルバー視点のお話もある予定です!)、そして原作であるこちら両方とも頑張りますのでよろしくお願いいたします。

それではまた。

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