餓鬼王からの挑戦状①



《瞑想VRを終了します》




昨日は夜早くに寝て、朝起きて――朝飯を食べてからすぐ瞑想VRで一時間ほど瞑想。

このゲームも最初は地獄だったが、今やありがたい精神統一の場になっている。


まだまだ一日は始まったばかり。


休みってのはいいもんだ。

ゲームだけで終わりそうだが……。





《ニシキさん、RLの世界へようこそ! 》





≪スキル説明:隠密≫


敵に見つかりにくくなる。




「はは、分かりやすいな」



王都ヴィクトリア、戦闘フィールド。


そのスキル説明を眺める。

これで、あのクエストはかなり楽になるはずだ。



「……練習しとくか――『瞑想』」



《瞑想状態となりました》



まずは居合の構えで心を鎮め、同時に瞑想を。

そして。



《ゴブリン LEVEL36》



近くに居たゴブリンを目標に。

俺は――静かに近付いていく。



『ギャギャ……?』


「――『スラッシュ』」



目線はゴブリンから外しながら、小さく呟く様武技を発動した。



『ギャ――!?』


「おお……成功した」



背後に武技を食らい、吹っ飛ぶゴブリン。

普通に殴るよりも1.5倍ぐらい減ってる気がする。


……これは、本当に取れて良かったな。





『ギャ……』



《経験値を取得しました》


《隠密スキルのレベルが上がりました》


《瞑想スキルのレベルが上がりました》



「おっ――上がった」



あれから、隠密からの不意打ちの練習を続ける事数十分か。


ゴブリンは何体犠牲になったか分からないが、二つのスキルのレベルが上がった。


――そして。



《緊急クエストが発生しました》


《特殊クエスト:『餓鬼王からの挑戦状』が発生しました》


《高難易度クエストです!パーティーでの挑戦が推奨されています》


《『餓鬼王からの挑戦状』を受けますか?》


《受注しない場合、クエストは即破棄されます》



「……はは、こっちも来たな」



タイミングが良くて笑ってしまう。

でも――自然と、身体は強張っていた。



「……ふう」



深呼吸。

準備はしっかりやった。

十六夜から隠密も習った。



「――『受ける』」



俺は、アナウンスへとそう答えた。


その地獄を――克服するために。





《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》



「……ここでもまずは練習だな。『瞑想』」



《瞑想状態になりました》



木陰に隠れ、俺は瞑想を発動。

精神を抑えながら奴らを見る。



『ギャギャ……?』



もうすぐ先に居るが――気付いていない。

まあここまでは前と一緒だ。


さて……頼むぞ『隠密』。



「――っ」


『――ギャ!?……ギャギャ?』


『ギャ?』



草陰から放り投げたスチールアックスは、ゴブリンに到達。


そのまま隠れていたが……バレていない。



「……よし」



小さくガッツポーズを。

これなら――大分楽にいけそうだ。


地味で姑息な戦法かもしれないが……勝利を手にする為には、これが正解だろう。




《第3ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「……ふう」




≪スキル説明:環境利用≫


環境を利用した攻撃、移動にボーナスが加わる。


≪現在まで扱った利用技≫


砂掛け:地面に砂が存在する時、その砂を相手に掛ける事で低確率で相手に状態異常『暗闇』効果。

状態異常『暗闇』:相手の視界が遮られ、敵はこちらへ狙いを付けにくくなる。


影隠れ:身を潜められる草木がある場合、それに身を潜める事で外敵から見つかりにくくなる。特定のスキルがある場合さらに見つかりにくくなり、不意打ちの威力も上昇。




「やっぱり増えてたか」



アレから色々ゴブリンに試す事何回か。

面白い程にバレない為、そのスキルを見てみればその表示があった。

隠密スキル以上の隠密能力を引き出せる――この場にはかなりありがたいモノ。


……十六夜には本当に感謝だな。




《隠密スキルのレベルが上がりました》


《第4ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「……さて、次から本番だな」



《警告!餓鬼の軍勢が近付いてきます!》


《第5ウェーブを開始します》


《制限時間は十分です》



《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》

《ゴブリン LEVEL35》


《ゴブリンアーチャー  LEVEL35》

《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンソルジャー LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》

《ゴブリンシャーマン LEVEL35》




「……『瞑想』」



居合の構えを木影の中で行う。

精神統一。

暴れる鼓動は、間もなく収まっていった。


それに加え、用意していたポーションも飲み干す。



《瞑想状態になりました》


《オフェンスアップポーションを使用しました》



大丈夫、やる事はずっと同じだ。

シャーマンを隠密状態のまま殺し、その後ゴブリンも確固撃破。



「――」



ゴブリンシャーマンに向け、草木の影を移動していく。

視線は地面に。足音を立てない様に。


やがて――その背を眼前に捉えた。



《ゴブリンシャーマン LEVEL35》



『ギャギャ……』


「――『パワースウィング』」



集中、集中。

目を瞑った隠密状態のまま武技を放つ。


ゴブリンの背に向かった、横薙ぎの一発は――



《経験値を取得しました》



「……!」



目を瞑っていても感じた――気持ちいい程のクリーンヒット。


それは、ゴブリンシャーマンを一発で葬れた事からも分かる。

どうやら……俺の予想よりも早く終わりそうだ。





《第5ウェーブをクリア》


《三十秒後、次のウェーブに入ります》


《失ったHPとMPを回復します》



「……終わった」



立ち尽くして嘆く。

アレだけの絶望が――苦戦も無く終わる。


シャーマンを一撃で葬れるのが大きすぎるな。

アーチャーも俺の隠密には気付かなかったし、その後衛達を倒せば消化試合。

ゴブリンの後衛達は、他のゴブリン達と距離がかなり空いているからバレにくいのもある。


勿論油断はしていないが……ここまで楽になるとは思ってなかった。



「さて――次は何が来るかな」

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