掲示板回:彼女が彼を見つけるまで


《貴方は死亡しました》


《デッドゾーンで死亡した為、通常フィールドに戻ります》


《王都ヴィクトリア・非戦闘エリアに移動しました》



「……」



わたしは、気付いたらそこに移動していた。


敗北の瞬間――自分は勝ったと思った。

でも……気付いたら彼の斧がわたしの身体を襲っていたのだ。



「……負け、ちゃった……」



切り札である『跳躍』の脚装備、そして『攻勢の劇薬』を組み合わせた最終兵器。

その技は、これまでに破れられた事が無い。

もっと言えば――これを使うまでもない敵だらけだった。


わたしの影の薄さと、『消える』2つのスキルは本当に相性が良かったの。


でも……彼は、その全てを破ったのだ。



「……誰、なんだろ……」



職業は、一番の不遇と言われている『商人』。


でも――油断は勿論していない。

何より、『オーラ』があったから。それに彼は、その前に二人を相手にして余裕で勝っている。


わたしもあの二人なら余裕だけど……それでも、彼に負けるとまでは思わなかったよ。

まるで、戦闘の中で急に成長したかの様。

常にギリギリの状況で、活路を見出す彼の姿は――わたしにとって……凄く魅力的に映っていて。


簡単に言えば、彼にもう一度会いたいんだ。

こうなった時――あの、『デッドゾーン』での名前が見れないという状況が仇になる。



「……名前、聞けば良かった……」



呟いても、もう遅いのは分かってる。


でも……こんな広い世界じゃもう――



「……いや、『あんな』商人さん、絶対にどこかで知られてる……」



いつものように存在感を消して。

適当なNPCの店の屋根に上って座り――私は呟く。

通りがかるプレイヤー達を眺めながら、彼の姿を思い浮かべた。


そうだ。

商人という不遇職でアレだけの強さ――それこそ、誰かが知っているはず。



……『掲示板』。



わたしは――彼に会いたい一心で、初めてそれを開いたのだった。





「……これ――」



やがて見つかるその職業の掲示板。

そこにわたしは、慣れないままに打ち込んでいった。




◇◇◇



【永遠金欠】RL商人専用スレ 三十G目 【商人なのに】



130:名前:名無しの商人

なあ俺最近アイスウルフ相手してるんだけど、皆そんなによくポンポン倒せるよな

なんか方法とかあるの


131:名前:名無しの商人

>>130

>>1 嫁


132:名前:名無しの商人

テンプレ読もう そんだけここの住人が増えてる事実は嬉しいけどさ


133:名前:名無しの商人

先代が築いてきたラロシアアイスのモンスター対策情報(商人版)があるからな

マジでありがてえ


134:名前:名無しの商人

先代ってまだ死んでねえだろwww


135:名前:名無しの商人

今は多分フィールドボスに挑んでるんじゃないかな


136:名前:名無しの商人


『商人の幸運について』


ある程度だが、大体Gが落ちる確率が分かってきた

スキルレベルが25で、百回アイスウルフを狩り続けて(流石にパーティー)、Gドロップは26,24,25回

スキルレベルが30で、同じ条件でGドロップは30,31,29回


つまりレベルがそのまま百分率になってると思う。

最初に比べて大分確率上がってるから、このまま上げていけばかなりの収入源になるんじゃないかな

ちなみに器用値でのゴールド上昇率はまだ分からぬ

ぶっちゃけ今の状況だと器用だけに振ってられないからなwすまん


137:名前:名無しの商人

>>136

ありがとう 俺達はもう半戦闘職だしステータスはしょうがない スレ全体で検証しなきゃ分かんねえわ

カンストが無い限りは上がっていくんだよな……どこまで上がるんだか


138:名前:名無しの商人

>>136

おつかれ!俺も最近結構落ちるようになったから納得したわ

アイスウルフなら3000G程度だけど、意外と馬鹿にならんのよね~


139:名前:名無しの商人

レアアイテムとか出る事無いしなあ


140:名前:名無しの商人

お前ら最近何か出た?


141:名前:名無しの商人

熊頑張って倒してたらちょっと良い素材が出たぐらい


いって10万Gだけどデカいわ


142:名前:十六夜いざよい


こんばんは


少し聞きたい事があります


このまえ会ったプレイヤーさんが商人で そのプレイヤーの名前を知りたいです



かなり強い方で あの 有名な方かと思い質問しに来ました


とにかく対人戦闘が強い、黒い斧を持ったプレイヤーさんです


どうかお願いいたします



143:名前:名無しの商人

なんだコイツ(驚愕)


144:名前:名無しの商人


145:名前:名無しの商人

おいおいいくら何でも唐突すぎるだろ 


初心者か?改行滅茶苦茶だしw


146:名前:名無しの商人

な、名前出ちゃってるって!!www


147:名前:名無しの商人

かわいいねえ^^おんなのこ?



◇◇◇



「……あ、ど、どうしよ……」



衝動で書き込みをしてしまったけど、よく考えたら名前の欄、皆『名無し』だし……わたし、そのまま打ち込んじゃった……


変な人もいるし、話の流れも切っちゃったし……



「うぅ……」



掲示板とはいえ、嫌な汗が出てきてしまう。

こういう……多人数の目で見られている感覚は、とても苦手だ。


いくら文字のやり取りとはいえ、手が震えてしまう。




◇◇◇


148:名前:十六夜

すいません


あんまり こういうところ知らなくて


149:名前:名無しの商人

別に良いよ こんな便所の落書きにルールなんてある方がおかしいし


150:名前:名無しの商人

>>149

は?いやいやそれは違うだろ

荒らしがスレ埋めたりするのも構わないのか?


151:名前:名無しの商人

商人スレに荒らしは草


いや居たわ……


152:名前:名無しの冒険者

誰だよ荒らしって笑

この商人の職自体、RLの荒らし達みてえなもんじゃん笑wwwwww


153:名前:名無しの商人

>>152

うわ出た


154:名前:名無しの商人

>>155

とっとと失せろツンデレ 


155:名前:名無しの商人

ねえ^^;おんなのこか聞いてるんだけど^^###


156:名前:名無しの商人

>>155

お前も消えろ 商人の名が汚れる



◇◇◇



「……あ……何か始まっちゃった……」



目まぐるしい勢いで口論が加速する掲示板。


もう、わたしの質問は誰も聞いてくれてない――



「――!」


瞬間。

掲示板にて――わたしへの書き込みへの返信を知らせる音。



◇◇◇


157:名前:名無しの商人

>>148

ごめん、質問スルーされてるな


武器はちょっと特徴が弱い

対人戦闘が強いってのはどの程度だ?思い当たる奴らなら複数居る


158:名前:十六夜

ありがとうございます


どの程度というか あなた達の職業の中でおそらく 一番強い人です


159:名前:名無しの商人

>>158

……商人の中で、最強のプレイヤーって事か?


160:名前:十六夜

>>159

はい 教えていただけませんか



◇◇◇



「…………」



黙って、掲示板が更新されるのを待つ。


もしかしたらその答えは、あのプレイヤーとは違うのかもしれない。

でも――何というか今、この住人達の『最強』が、彼である気がした。



◇◇◇



161:名前:名無しの商人

>>160

『ニシキ』だよ。間違いなく

あ、プレイヤーネームはこのままね。カタカナでニシキな


162:名前:名無しの商人

うん 


163:名前:名無しの商人

そうだな……ちょっと言うの恥ずかしいけど、商人の希望だよあいつは


164:名前:名無しの商人

俺達が復帰したの大体ニシキの配信見てからだし

実力は紛れもなく一番強いわな


165:名前:名無しの冒険者

き、希望wwwwはずかちーw

ニシキ君のファンスレッドですかあ???ここはwwww


166:名前:名無しの商人

>>165

お前も毎回一緒に盛り上がってるだろうが

ファンなんだろ?素直になれよ


167:名前:名無しの商人

>>160

アンタが言った黒い斧って刀に変形したりしない?ww

それなら確定でアイツだよ



◇◇◇



「……に、ニシキ……」



名前を反復する。


この掲示板の商人さん達は、まるでその人しか居ない――そんな口ぶりだった。

彼こそが、間違いなく最強であると。


きっと……その相手こそ、私が闘った彼なんだ。



◇◇◇


168:名前:十六夜

ありがとうございます


とても助かりました


169:名前:名無しの商人

>>168

おう

今度来るときは、せめて匿名にしときな


170:名前:名無しの商人

>>168

ちなみに何で探してたの?


171:名前:名無しの暗殺者

名前 これで良いですか?


理由はその方ともう一度会いたいと思ったからです

それではありがとうございました 失礼します


172:名前:名無しの商人

あ、あ、暗殺者wwwwww


173:名前:名無しの商人

おいおいニシキの被害者だったか


174:名前:名無しの商人

流石に笑う


175:名前:名無しの商人

また来いよ暗殺者さん!掲示板だけでな!! RLではこっちに来ないでね!!!


176:名前:名無しの商人

ニシキくん逃げてーwwwそっち行ったぞ~ww


177:名前:名無しの商人

まさかのPK職かよ


178:名前:名無しの商人

……なんか、十六夜ってどっかで聞いたことあるような



◇◇◇



「へへ……」



最初は、少し辛かったけど……掲示板の商人さん達は冷たくはなかった。

色んな人達が居て、その中に匿名で混ざれるのは掲示板の良さなんだろう。



「……よ、よし」



商人さん達のおかげで――その名前が分かった。

後は……勇気を出して、『彼』にこれを送るだけ。



「え……えい」



名前を入力して……勢いのまま、それを選択した。



《ニシキ様にフレンド申請を送りました》


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る