『救世主』②


「皆さんこんばんは☆ハルでーす☆」



『おっ、一コメゲットー!』『今日もかわいいなあ』『こんばんは~』



「皆さん今日も来てくれてありがとうございます~☆」



配信を立ち上げ、早速流れてきたコメントに手を振り返す。


……あれから、私の配信アカウントの登録者は増えた。それもかなり。

一時期、花月く――いや、『ニシキさん』との配信の動画から、私に興味を持ってくれた人が増えたみたい。


コメント量も勿論増えたし、ゲーム内で声を掛けてくれる事も多くなった。

そして――もう一つ増えたのは。



「えー、今日コラボの依頼が来てまして……その方と、なんとラロシアアイスのボスに挑戦する事になりました!」



そう、配信のコラボ依頼だ。

……正直、あまりそういうのは積極的にやらないんだけど。

多人数でやるよりも、一人でプレイしながらリスナーさん達と話す方が個人的に好きだからね。贅沢な悩み……そう言われればそうなんだけど、困るもの。


ただ、毎回毎回私一人ってのもリスナーを飽きさせてしまうから……たまには選んでコラボ依頼を受けている。



『え、また?』『ハルハルは人気者だからなあw』『いいね~もうレベル35だし、次のマップ行けるもんな』



「あはは☆そうですね~そろそろ次のマップに行く為に挑戦しようかなと☆」



RLにおいて、ラロシアアイスの次の街に行くための条件は二つ。


まず、レベルを35以上にする事。

そして、『フィールドボス』を一回以上討伐する事。


レベルもかなり高く要求されるんだけど……これまでの街に無かった条件として、二つ目の条件。

フィールドボス……その存在は、中々に手強い事で知られている。

闇雲に突っ込んでも勝てず、相応の心構えが居る相手だ。



『コラボ人数は?』『相手は前みたいなお姉さん系が良いわ』『分かる あの身長差良いですわね』



「あはは~☆えっと……確か三人いらっしゃってまして、その内の二人はあの『舞月』ギルド所属だとか!」



実を言うと、今日の相手はかなり前からコラボ依頼を私にしていた。


……ただその依頼が少し『ん?』となるもので――例えば、何故かかなり上から目線だったり。

依頼内容も適当で何がしたいのか良く分からなかったり。


それが何回も続いて断り続けていたのだが……今回、ようやくまともな内容で依頼が来た。


依頼人だけでなく、仲間として二人大手ギルドから助っ人として来てくれると。


流石にずっと断るのもそれはそれでダメだし、二人きりでもないし、更に言えばそんな強い人達に手伝ってもらってフィールドボスを倒せるのなら……と思い了承した。



『凄いじゃん、あのトップギルドの『舞月』だろ?』『ハルちゃん凄いな』『あの侍だらけのバケモンギルドじゃん すげえ』『変な奴らじゃないといいけど……』



流れるコメント。

実際、私も少し不安だ。


でも……リスナーのコメントのおかげで、何となく安心出来る。

もはや配信は――私のゲームライフに欠かせないものね。





《申請が受理されました》


《パーティーリーダーのチャンネルに移動します》



「あー、こんちわ!カズキングでーす!!」


「!え、ちょっ、ちょっと……」


「ハルさんのリスナーさん?こんちわ!オレのアカウント、登録お願いします!登録お願いします!!」



入ってくるやいなや、そう私の目に合わせて大声で叫び、また周囲を回ってさらにもう一度叫ぶ――『カズキング』さん。

派手な金髪、大きな身体。大きな鎧に身を包み、片手剣と盾を持っている。





……もしかしたら、まずいかもしれない。



『は?』『何だコイツ……』『×××か』『おい規制はいってんぞw』



コメントも同様、彼に良い印象を持っていない様だった。



「あ、あの~……そういうのはちょっと」


「え?別にいいっしょ?コラボなんだし宣伝くらいは!」



『おいおいなんだこの配信者』『ガキが……×××』『落ち着けw』『やべーの引いたなハルちゃん』



「……これ以上やるなら、コラボは無しで」


「ええ?ったく硬いなあ……まあいいや」


「よろしくお願いします☆それで、もう二方は……?」



何とか出したいつものハル。キツい……


パーティー人数は、招待された時から彼一人のみだった。

何となく、嫌な予感が過ってしまう。



「……あー、それなんだけどさー、ちょっと無理だって今日」


「え……」


「無理だから。二人で行こ」


「いや、流石にそれは……」


「大丈夫だって!オレの職業スゲーだろ?『聖騎士』なんだわ!」


「は、はは……」



『うわっ感じ悪』『今からコイツ殴りに行っていい?』『コラボ拒否したら?ウザ過ぎて笑えないわ』



流れるコメント。未だかつてないコラボ相手に、皆怒っている様だ。

……正直、精神的に大分助けられている。




「すいません、ちょっとコラボはもう――」


「ええ!?してくれるって言ったじゃん!リスナー楽しみにしてんだけど!!」


「あのー流石に二人っていうのは……約束と違――」


「いいから!こうしてる時間が勿体無いだろって!!」



断ろうとしても、勢いで迫られる。

今まで、こういう配信者には会った事がなかった。


ゲームと言えども、これはフルダイブVRMMO。正直……怖い。

身体もゲーム内の私より一回り大きい訳だから、子供と大人みたいなものだ。

相手の表情、気迫、それは全て頭上から降り注ぐ。まるで、支配されている様に錯覚してしまうそれ。


『押されていく』自分。

こんな時、現実の私なら……と思ってしまった。



「わ、分かりました……一回行ったら、終わりで良いですね」


「……んじゃ行くか!!まあ任せろって!邪魔だけはすんなよ!!」



大きい声が、嫌に上から頭に響く。

『早く、終わらせたい』――


その一心で、私はその場所へ歩いて行った。

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