『救世主』①




「今日もありがとう、助かったよ」


「ああ。どうも」



《行商クエストⅡを達成しました》


《報酬として経験値を取得しました》


《報酬として10万ゴールドを取得しました》



「……流石に、ちょっと危なかったか」



ラロシアアイス、NPCに無事に荷車を届け終えた後俺は呟く。


終始優勢……であったと思いたい所。

いきなり俺の指輪が取られたのは驚いたが、結局倒したら返ってきたから良かった。


体力を削られながらも問いただしたお陰で分かったが、あの強奪スキルは対象を倒さないと完結しないらしい。

奪ってそのままサヨナラって訳にはいかないようだ。



「後は、最後のアレだな」



指輪ではない何かを、指輪に見せたスキル。

アレはかなり危険だ。どの程度の範囲か分からないが、武器をあの毒瓶に変える事も出来る訳だしな。


彼は分かりやすく仕掛けてきたから気付けたものの――上手いプレイヤーならどうなるか。



「本当に厄介なプレイヤー達だ……」



新武器を握り、氷雪の空をぼんやりと見上げながら俺は嘆く。


それでも――この武器のお陰で、俺は勝てた。


『亡霊の魂斧』は、通常状態でもかなり強い。

そして更に――体力が三割以下になった時には『刀』に変化するんだ。

恐らくだが、その時のみ体感的にAGIとSTRが増えている気がした。


効果時間は数十秒程だが、攻撃力と速度の増加……そして状態異常、『出血』の付与。

その効果は、一瞬とは言えかなり高いだろう。


何より――相手を困惑させられる。

商人が『日本刀』を手にするなんて、考えられないだろうからな。



「良い武器だな……本当に」



あの二人の『熊さん』達には、感謝してもしきれない。


……なんて。

そう、大活躍の魂斧をぼんやりと眺めていた時だった。



《ハル様からメッセージが届いています》


『お疲れ様です、ニシキさん。突然ごめんなさい……』



珍しく、『あの』口調ではないハルからのメッセージ。

何だ?かなり切羽詰まっているような……


というか、この口調――いつも聞いているような気が――



『ああ、どうしたんだ?』


『!ありがとうございます。ごめんなさい、いきなり』


『え?大丈夫か?何かあったのか?遠慮なく言ってくれ』



チャットで分かる――元気がない。それもかなり。

間違いなく、いつものハルではない。


彼女には恩があるし、仲良くしていきたいから俺はそう返信した。

何より――今のハルはおかしいから。

元気いっぱいの配信中の声とは違いすぎたのだ。


一瞬の静寂。

そして、次の彼女の台詞は――



『私『達』の配信に、助っ人として出て頂けませんか……?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る