もう一人の熊①

ラロシアアイス、非戦闘エリア。

ベアーの決闘後――俺達は、彼の『工房』とやらに向かっていた。



「……ちなみに、相方ってどんなプレイヤーなんだ?」


「そうだねえ……普通の子だよ。いつも忙しそうにしてるなあ」



笑ってそう言うベアー。

忙しそうって、俺なんかに構ってくれるのだろうか?

……まあ、武器を完成させてくれるならどれだけ待っても構わないんだが。




《専用フィールドに移動しました》


《『熊さん工房』に移動しました》



「……凄いな。いかにも鍛冶師の工房だ」


「ほっほっほ、ちょっと汚いけどね」



レンガの山に小さい炉の様なもの、ハンマーのような治具……それらが十畳程の部屋に置かれている。


同じ生産職でも、製作系の職だとこんな部屋も持てるんだな。



「……で。肝心の相方ちゃんは――多分休憩部屋かな」



鍛冶部屋?を抜けて、ドアを開けるベアー。

すると――



《クマ― 鑑定士 level35》



「あーはいはい。『ぐらい』じゃなくてもっと正確に。はい、了解。九時半丁度にそっちね――」



慌ただしそうに、ソファーのような家具に寝転がり一人で話している彼女。


小さい背丈に大き目な眼鏡。……初めてみたな、眼鏡。

その装備はハルのようなオーダーメイドか、熊耳のついたローブのような服を羽織っていた。


んで名前はクマーって、ベアーと被り過ぎだろ!



「――はいはいこちらクマ―です、ん、『鑑定』の依頼?まずはメールで概要送ってもらってからでいいかしら」


「次は……は?タダでやるわけないじゃない!ふざけ――あ」



五分程チャット?で話していた彼女が、こちらに気付く。

ローブに包まれた顔は、幼くも知性が高そうなものだった。



「え、誰。……ベアー?」


「あー、えーっと、クマ―ちゃん、こちらの方に武器のレシピを――」


「――ダメ。今ちょっと忙しいから」


「えぇ……頼むよ」


「どうせまた頼み込まれて来たんでしょ?ひとが良すぎるのよベアーは。断れって言ってるじゃない!」



そんな会話を繰り広げる二人。

ベアーの方が身体は二回り大きいが、立場は彼女の方が上のようだ。不思議な関係だな。


それにしても、俺が口を挟む間がないぞ……



「……今回は違うんだ。彼との決闘にボクは負けた。勝利の条件に武器の製作を依頼されたんだ~」


「――は?」



何故か誇らしげなベアーの言葉に固まる彼女。

そしてクマーは、寝ていた身体を起こしてこちらに来る。



「……え、ベアーに勝ったの?……このプレイヤーが?」



その眼鏡を手で上下しながら、まじまじと見られる。



「……武器、防具も普通、いやそれ以下。……アクセサリーだけ良いの付けてるわ、氷宝玉って結構なモノじゃない――って『商人』!?」



つらつらと呟きながら、最後には大きな声を出しながら仰け反る彼女。そこは一番最初に分かるはずなんだが。

中々変わった子だ……って、今俺の装備を言わなかったか?



「勝ったのは本当だって。完全敗北だったなあ」


「……そう――でも、勝手に約束するのはおかしいっての!」


「ほっほっほ……ごめんね」



……流石に、そろそろ口を挟むか。



「――俺からもお願いします。クマーさん」



ベアーばっかりにお願いさせるのもおかしいだろう。

俺は、彼女に頭を下げた。



「……ちょ、ちょっと貴方まで……というか貴方は謝らなくていい。ベアーが勝手に約束しただけだから」


「とは言っても――彼に俺が強くお願いしたんだよ」


「うーん。まあいいわ!貴方はベアーに勝った――それだけで、優先度は一番だから」


「……一体、どうしてだ?」



そう問うと――彼女が、ニヤリと笑って胸を張る。



「――私の『野望』。それは――をこの目で見る事だからね」


「ほっほっほ」



クマーがそう言うと共に、後ろで見守るように笑うベアー。


……最強の、生産職か。



「生産職だからって、戦闘で彼ら戦闘職に敵わないって考えてるプレイヤーばっかりなの。まあ実際そうかもしれないけど……私は、『強い』生産職が見てみたい。生産も戦闘もこなしちゃうような、ね」


「……それなら、俺は当てはまらないかもしれないぞ」


「――どうして?ベアーにも勝ったんでしょ?」


「『戦闘』、だけだからだ。『商人』という職業が、どういう扱いを受けているか知っているだろ?」



ジャンルで言えば生産職。しかしその実態はGを増やす事だけ。

その量もそこまでで、パーティーに居ればPK職からも狙われる疫病神の扱い。


言うなれば、半戦闘職・半生産職。

黄金の一撃、黄金の蘇生術――それらが何とか繋ぎ止めてはいるものの、どっちつかずの職業だ。


……後ベアーに勝てたと言うが、彼が逃げずに向かって来てくれたからであって――本当なら負けていた訳で。ここでそれを言うのもおかしいから黙っておくが。



「っ!……ふーん。そんな職についてる割には、えらく堂々としてるのね」


「それは――この職業を、俺が何より気に入ってるからな」



……『それ』は客観的なもので、俺自身は『商人』が嫌いな訳ではない。

行商クエスト。NPCとの関わり。そして戦闘においても。

俺ははっきりと――この職業が、好きだと言える。



「!――うーん、気に入った!……えーっと、九時までの予定は全部キャンセルで……」



ピコピコと画面を弄る彼女。

……なんか不穏な言葉が聞こえているが、とりあえず受けてくれたって事だよな。



「……よし!んじゃ、早速やろっか!ベアー、準備しといて!」


「ほっほ、了解」



ベアーは先程の鍛冶部屋へ。

クマーもまた、何やらまた画面を触っている。


詐欺師にもあって、散々だと思っていたが。


……この二人の熊さん達?には、任せても大丈夫だろう。

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